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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第八章 廻る歯車
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廻る歯車4

 賊を蹴散らしたのはほんの小一時間程度、テオはシャルルが眠る部屋へラビットを案内した。


 テオのために虫の布で被われた部屋は朝日を浴びて、幻想的な白の世界を紡ぎだし、その中でシャルルがうつ伏せのまま眠っていて、健康的な肌に白い包帯が映え、色香すら感じさせる。


 寝台には寝乱れた痕跡があり、ラビットが小さくため息をついて、


「小さい頃から見ていたお前らが、情を交わす仲になっているのを見るのは、ラビットおじさんとしてはちいと複雑だな」


とやはり小さく呟いた。 


「俺たちを取り上げたのは、ラビットだと医師から聞いている。今さら何を」


 テオの言葉に、


「だからだろーが!おしめまで変えてた俺が、成人したお前らの…まあ、いいか。あと………五年…短すぎるな…」


ラビットは昔を思い出してむきになったが、しかし、残されたささやかな時間を思い出す。


「うん。シャルルが銀の甲冑に選ばれた時に、俺も選んだ、この道を」


と、テオは告げる。


 ただの兄として生きていくには、リムである自分自身には残酷だった。


 シャルルを求め、苦しみ、葛藤に震えた幾ばくかを抱えた日々。


 生まれた瞬間からマスターがいる、しかし、マスターに認められない辛さは、テオを美しく気高い王にしたのかも知れないが…。


 テオは黒ローブを脱いで椅子に投げると、シャルルの背を隠すように、部屋着のローブをシャルルに掛け、


「シャルル、シャルル、起きて。珍しいお客さんがいるよ」


と甘えたように耳元で囁いた。


 シャルルが微かに呻きながらうつ伏せのまま、両腕を支えに起き上がると、部屋着でふわりと覆う。


「テオ…」


「おはよう、シャルル」


 柔らかな巻き毛は寝乱れていたが、光に透ける存在の美しさに、テオはぶる…と身震いをした。


「ほら、ラビットだよ」


 陽気なテオに両手を掴まれ寝台に腰掛けたシャルルは、起き抜けに弱くぼんやりと部屋に視線を巡らせる。


「ラビット……?」


 巡らせた窓横の椅子の先に、禿げ上がった黒眼帯が見え、


「師匠…っ」


シャルルが慌てて立ち上がって、ぐらりと身体を傾げた。


「シャルルっ…」


 テオの手が支えてくれるが、膝が震えて寝台に座り込む。


「おいおい、情の深さが半端ねえな」


「それもあるけど…シャルルは半月前の闘いで毒の刃を受けて手足の痺れが…」


「ふむ…見せてみろ」


 近寄ってきたラビットが大きな手で手先と足先を触り、目蓋を上下に引っ張り目の中を見た。


山蛇(ガールーダ)の毒だな。光彩が開いてるからな。大地との契約で力を使い果たした頃に刺されたな。山蛇(ガールーダ)の毒が一気に回ったんだな」


 ラビットが荷物の中から小さな瓶を出すと、テオに手渡す。


「毒消しだ。山蛇(ガールーダ)だけじゃないがな。一月もすれば毒は抜ける。それまではおとなしくしておけ」


「一月も…騎士団の訓練が…」


 歯噛みするシャルルに


「焦るな。俺が面倒をみてやろう」


とラビットはシャルルを励ました。


「これ…ジューゴから貰った…」


 同じ瓶ならジューゴからも貰っていて、量が心もとなくなっていたのだ。


「おお、ジューゴも来ていたのか」


「黒の楽園のグランツに手紙を届けに…」


 それも黒の楽園壊滅のため、徒労に終わってしまったのだが、あの辺境の運び屋は今どうしているやら。


 何となく気重になった雰囲気は、食事を運んでくるらしいワゴンの音がして、腹を鳴らしたラビット苦笑いで和んだ。

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