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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第八章 廻る歯車
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廻る歯車2

 屋敷の二階のバルコニーには既に弓隊が待機して、屋敷の全面に広がる麦畑がさやさやと靡くのを確認していた。


 楽園騎士団とは別に、領地の安寧に雇いいれたのは遥か昔からであり、ある意味、父の領地統治の仕方は、王国であったやもしれない。 


 しかし、父のジュリアスは小さな領地を持つ人と、広大な領地を持つ自分を同等化し、分け隔てなかった。


 領地を守る隊を組織するための砂金集め、領地の生産により区分し分け領地整備に当て、結局、それが領地から王国への移行を円滑にしている。


「弓隊が掃射した後、俺が出る」 


 テオがそう言いながら屋敷の扉に向かうと、王国騎士の一人が


「しかし、国王」


と制止した。


 麦畑から屋敷の前のモザイク張りのエントランスに入り込んだ瞬間、左右から掃射し正面に来た賊を生け捕りにする手筈だ。


「毎回毎回お前たちに任せていると、捕縛の前に切り殺してしまうからな」


 夜討ち朝駆けとは言わないが、ガゼルの率いるガーランド王国遊撃隊を蹴散らして以来、何故か騎士崩れや無法者が屋敷を目指す。


「はあ…すみません」


 幾分かテオよりずっと大人の騎士が呟くのを見て、テオは苦笑いをした。


 腕は確かなのだが殺気走る彼らに、揺らぎを教えてもらいたいものだと思う。


「賊影発見。六人です。弓隊掃射」


 使用人に両開きの扉を左右に開らかせ、黒いローブのテオが剣を持って立ち、掃射の弓の軌道を確認し走り出した。


「援護します」


 騎士が同時に走り出し、テオは六人のうち三人が矢じりに倒れ込み転がったのを目端で追うと、それを捨て置きテオに向かってくる賊の懐に飛び込み剣の先端をのめり込ませる。


「がっ…」


 男がみぞおちを打たれて、体液を吐き散らし、テオは避けながら、王国騎士が別の男を切り捨てたのに


「ちっ…」


と舌打ちをした。


 斬りどころが悪ければ、また死体になってしまう。


 テオはじわりとした腕の痛みを感じながら、体躯のいい深め帽子の無頼漢に向かっていく。


 テオドールと人間の名前を掲げていても、リムに違いなくその呪縛を受けて、賊ではありながら人を傷つけた報いが腕に現れていた。


 両刃潰しの剣で打ったにも関わらず、それはテオの身体に深く染み込み、シャルルに心配をかけてしまう…と瞬時考えてしまう。


「戦闘中に考え事は良くないな。大体隙をつかれるな」


 長い黒ローブの裾を掴まれ、無頼漢にちぎるように引っ張られ、テオは紐を引いて首からローブを引き剥がし、全裸になりながら後ろに飛びずさった。


「遅いな!」


 背後に間合いを取り逃げ切ったと思ったが、足で蹴り飛ばされテオは回転して膝で立ち、なんとか手を広げ光防御の盾を作ろうとする。


 しかし本当に僅かな隙を突かれ、テオはそのまま泥つきブーツで背を踏みつけられた。


「いかん、いかん、いかん。リムは騎士と共にいてこそだな。黒ローブは防御の証。いくら刃潰しの剣を差し出しても致命傷には出来んし、痛むのは自分の身体だ。なあ……テオよ」


 身体にぱさりとローブを被され、無頼漢は足を離し帽子を脱ぎ捨てる。


 地に落ちた帽子を、這いつくばって見上げていたテオが


「あ」


と呟いた。


 禿げ上がった頭に、右目の黒革眼帯と鉤裂き傷は、強烈なインパクトを持ち合わせ、忘れようがない。


「ラビット!」 

 

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