男の子の内緒話
改稿済
「ファナ様、先に部屋に行くわ」
「うん、おやすみティータ」
「ん、でも、早く来てね。夜更かしはファナ様の身体に悪いわ」
「わかった」
先に部屋に戻したティータはやや興奮ぎみだったが、どうしてもファナに聞きたくてハイムは
「話がある」
とファナだけをを居間に引き留めたのだ。
「なんだよ…一体。ファナに宗旨替えか。ら」
「それはない!ティータ一筋」
「あっそ…で、なに?」
「ティのことなんだけど…」
ファナがよじよじ登って椅子に座ると、ハイムはコップを渡す。
一口飲んだジューゴが
「すこし甘いな」
と眉を寄せるが、
「疲れがとれる万能薬。甘水」
とハイムは自分も飲みながらすすめた。
「で、ティータがなんだって?」
ランプの薄明かりと月明かりが差し込む広い居間で、ハイムは聞きにくい、だが、聞いておきたいことをファナに尋ねる。
「その…ティはリムだからって…好きにすればいいって…そんな目にあったのか?」
ファナは
「そのことか…」
と甘水を飲みながら、ふーっ…とため息をついた。
「俺もファナの意識を通して見ただけなんだが…三人のリムが仮のマスターフーパの指示で…な。リムは家畜にも劣るってのがヒトの考え方だ」
ハイムは怒りのため、腰に巻いた留め具に差した剣の柄を握りしめる。
「ティータともう一人小さいのは、騎士の小遣い稼ぎの為にちょこちょこ連れ出されたらしい。ほら、お前みたいにリムを物珍しく思う奴らにもてあそばれたって訳だ」
「お、俺はっ…」
ファナの言葉がハイムの胸に刺さるが、ファナはさらに告げてきた。
「リムには人権がない。犯そうが殺そうが、そこにはヒトの為の約束事は通じない。ティータが夜うなされてどんだけ唇を噛み締めて泣いていてもだ。ハイム、ティータを犯した奴らをぶっ殺すって息巻いてる前に、考えろ。目の前にはティータがいる。ティータが欲しいのは奴らの首じゃない」
何も言えないでいるハイムは、ファナが甘水を飲み干してティータが眠る部屋へふらりと入っていくのを見て、自分も寝室に入ると腰で止めた飾りベルトを外し、長いシャツを脱いで腰巻きだけになる。
「ティの…欲しいもの…」
虫絹を敷き詰めた寝台で考えていると、扉をノックされハイムは無意識に声を出し、扉を開けた。
「どうぞ…王様、あのあ…れ…?」
枕を抱えた全裸のティータが、むうっ…と眉をひそめながら枕を抱えて入ってくる。
「ファナ様、今日何故だかいびきがうるさくて。ここで寝るわ」
そのままハイムの寝台によじ登り、枕を敷布の上に置いたので、ハイムは部屋を出ていこうとしたが、ティータに寝台を指差されてティータの横に情けない顔をして横になった。
ティータがその様子をじっと見てから、ハイムの脇の下にもぐりこみ、ハイムの腰巻きに手を掛けてくる。
「わ…あ!」
「腰巻きの布、チクチクする。取って」
ハイムは右脇にティータがいる状況の中で悪戦苦闘しつつ、腰巻きの端を抜くと脱ぎ捨てて足で床に蹴飛ばした。
ああ…そうなんだ…。
ハイムは裸のブルネットの少女が、ハイムの脇の下で小さく息を付くのを感じて、劣情を感じない自分に安堵する。
ティータの欲しいもの…安心感だ。
ティータの伴侶の前に、友であり下僕であり奴隷でもあるハイムは、深く息を吸い込んで、『男』を封印しようと決めたが、そう簡単には行くものではない。
「ハイムは変わった匂いがするのね、まるで…薬草の…」
ティータに脇の下で囁かれ、小さな手がハイムの身体にくっつく感覚の強烈さに、ハイムはまんじりとも出来ない夜を過ごしたのだった。