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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第七章 電脳のティータ
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電脳のティータ10

改稿済

 外はいつもの月が出ていて、ファナの中の重吾は満ち欠けする月が辺境にあると話していた。


 柔らかな大きな青白い月明かりが、ティータは好きだ。


 月の光を編み上げているようで…。


「王様…本当に…ティに攻撃するのか?」


「ああ、そうしてくれ。ただし素手でノーパソ取り上げるってとこな。ハイムがティータからノーパソを取り上げられたら、勝ち」


 屋敷と言うにはまだ小さな住処の広間は、一面の菜の花を綺麗に刈り取り、種から油を取るらしく、ファナが何やら辺境の料理の話をした。


 だから安心してなにも生えていない広間に、尻を全て飛ばす。


 花…踏みつけると、大地が悲しむから…。


「ハイム、ティータへの身体的攻撃はしていい。ティータには玉としてドングリを渡すから、ハイムがそれに当たったら負けな」


 猫耳リムポンチョを着たティータが、ノーパソを抱えてちょこんと座り込み、キーボードを打つ。


『起動』


『尻(Siri)確認』


『同期』


 そして、ここからだ。


 ノーパソとのシュミレートは、寝静まった夜中に何度も繰り返した。


『ティータ確認』


『同期』


 キ…ンと意識が冴え渡り、月が近く見える。


 ただ指だけは動いていた。


『尻、筐面移行』


『五感エミュート…完全同期』


 視界が一気に全視となり、九匹の尻と同化し、走り込んできたハイムの動きを封じるため、ティータは尻をハイムに飛ばす。


 硬質形状…。


 尻の表面が硬化し、速度をもってハイムにぶつけていき、ハイムの動きを封じつつ、上空からはハイムの行動パターンを弾き出していた。


「くそ…!ティに近づけな…」


 次々に尻が急降下しては、座り込み動かないティータを守るように展開し、尻が二匹叩き落とされた時、ハイムの行動を分析する。


 癖がある…独特の訓練されたパターンに、粗野な行動。


「ティータ、ドングリ爆弾」


 ファナの声が聞こえ、ティータは月明かりに投げられたドングリを数個、尻でバウンドし上空で硬化した面を使い叩きあうと速度を増していく。


「くっ…そ!」


 ハイムが尻を払いのけながら、ティータのパソコンに触れた瞬間、一瞬の隙を感じて五匹の尻の硬化面からまるで散弾のようにドングリを振り落とした。


「…がっ…あっ…」


 高速で叩きつけるドングリを避けることもできず、ハイムはノーパソに触れただけで地に伏す。


「心臓、両肩、両腿…見事だな」


 システム解除…尻通常モード、同期終了。


 眉間に意識が戻ってくるような感覚の中で、ハイムがうつ伏せのまま動かないのが気になった。


 しかし、ファナの言葉に一掃されハイムがくくっ…と笑っている。


「痛いか?鉄弾だったら死んでるぞ、ハイム。お前の動きには無駄がある」


 ファナがティータの横にしゃがんで、ティータの頭を撫でてから額をツン…とつついた。


「よく頑張ったな。夜中に何度も起きてシュミレートしていただけあったな」


 それを聞いてティータは驚く。


「知って…いた?ファナ様」


「あたりまえだ。でも、これからはちゃんと寝ること。背が伸びなくなる…ハイム?お前大丈夫か?立て…」


 ハイムの朗らかな笑い声は、はっきりとしている。


「『よい』!」


「はあ?」


 むくりと起き上がったハイムが、ティータの前できちんと正座をして、両手と額をティータの座る地に擦り付けた。


「え…」


 知らずかリムの畏敬を顕す最上の礼を尽くすハイムが顔を上げると、まるでモルトを見つめるリムのように羨望の眼差してティータを見上げて来る。 


「俺の負けだ。ティの下につく。でー、下僕、奴隷、なんとでもするがいい」


 下僕…奴隷…よく分からないが…ティータと同じにか、それ以下なら…。


「……………ん、ハイム」


 起きるように手を差し出すと、ハイムが泣き笑いのような顔をして両手で握り返してくるのが、月明かりの中でも分かった。

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