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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第七章 電脳のティータ
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電脳のティータ2

「なー、大将、生きた鉄の四つ輪って辺境の乗り物なのか?」


「んー?あれ、見たことないか?」


 ジューゴがウサギのサンドを食べながら、ランクルを拭いていて、それを見ていたハイムが尋ねる。


 遅くなった朝ごはんは、ランクルを囲んで玄関で済ましていた。


「こいつは、ランクル。ランドクルーザーっていうRV 自動車で、レクリエーションビーグルの略だ。でも、オフロード使用の自動車で、自衛隊のジープに並び合う車なんだ。排気量4600、燃費の悪いが足はいいし、このフォルムはべっぴんさんだし、たまらない。な、そう思うだろう、ハイム」


 ティータの横でハイムが混乱していて、ティータは思わず小さく笑った。


「あーー…さっぱりわからん。あ、大将。生きた鉄の…ランクルは腹が減るのか?」


 ハイムの質問にジューゴが少し苦い顔をして、左手首の包帯を外し、ハイムに見せる。


 そしてランクルの後部座席の左側の掌大、小さな扉をコンコン…とノックする。


「本来はここは給油口として、ガソリンというオイルを満たしてやる。だけど、ランクルは…給油っていうか、給血口(きゅうけつこう)に変化して…」


 扉がぐるりと回転したかと思うと、筒状の穴が開き、そこに手を入れたジューゴを見て、ハイムが驚いて口を開けた。


「中には鉤裂きする尖った歯があって…血を…搾り取る…ってて…」


 ジューゴの痛がる様子にファナが眉をひそめ、ハイムがジューゴの手を掴むとぐいっ…と引き抜き、


「いでぇぇっ!おまっ…」


叫び悶えるジューゴの代わりに、腕を突っ込んでみた。


 肘半分しか入らないその筒状の中はなま暖かくしっとりと滑らかで、しかし、ジューゴの言う尖った鉤裂くような歯はなく、痛みも感じない。


「あれ…」


 腕を回したり出し入れしたりしていると、むにむにと奥から柔らかい肉のような鉄に押し戻され、蓋をされてしまった。


「こん…の、馬鹿!手首もげるわっ!」


 ジューゴがハイムの頭をげんこつでぶん殴り、ハイムが頭を押さえて転がり座り込む。


 ポタポタと血が落ちるのが勿体無いのか、ランクルがすすす…と寄ってきて、小さくストローサイズに給血口を開いたので、ジューゴがそこに指を添えて、血が止まるまでランクルに与えることに決めたらしい。


「いててて…なんで大将の血だけなんだよ。誰でもいいんじゃないのかよ…」


 ハイムが頭を押さえながら、恨めしそうに呻いた。


「生きた鉄を扱えるのは、マスターモルトだけ」


「じゃあ、大将の血しかだめなのか?」


「当たり前」


 ハイムの横に並んで話していると、ファナが心配そうに、ラビットバスケットを持ってきていて、血が止まりかけたジューゴの手首に消毒をして、綺麗な布を巻いている。


 小さな声でなにかしら話していてよくは聞こえないが、ファナは泣きそうだが怒った顔をしていて、包帯を巻き終わったジューゴが頭を撫でる仕草がとても自然だった。


「いーなあ…」


 ハイムの思わずといった呟きは、ティータの気持ちそのものだ。


 マスター…口に出してみたい言葉…。


 リムならば誰しも求める、最上の…。


 しかしティータには手の届かない、言うことはないだろう言葉だ。


 だからこそ…モルトの語り部に選ばれ、隔離された。


 一人は嫌ではなかったし、白の楽園のリムと、自分が違うのを理解している。


 あんな風に喜怒哀楽を華やかに表現できないティータは、短い言葉で気持ちを表して逃げるように生きていた癖と、誰にも言えない悲しさを抱えたまま、ハイムの言葉に小さく頷いた。

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