電脳のティータ1
ティータは朝日の薄明かりに目を開き、ジューゴの脇の下から這い出した。
「ん…っ」
伸びをすると、両の胸の下が痛い。
少し大きくなった気がする…背はあまり伸びていないのに…。
痩せて背の高いファナとは違い、丸みを帯びてきた身体に不安がつのる。
ティータは冬には十二歳になるのに、一度もマスターを得られないでいた。
「朝ごはん…」
ファナとジューゴはまだ眠っていて、寝台から降りると、
「無理すんなよ」
とジューゴがそのままの格好で、声をかけてきた。
「大丈夫、心配ない。ファナ様まだ寝てるから」
「うん」
ぼさぼさになった髪を手櫛で整え、ポンチョを着ずリビングダイニングへ向かう。
ハイムは誰よりも早く起きて、兎を捕りに行っていていないから、裸でも大丈夫だ。
虫の布でも長い間着ていると疲れてしまい、眠たくなる。
ファナの睡眠が長いのは、多分そのせいだろう。
「パンに肉をはさんで…新しい葉っぱを…」
ファナが食べられる葉を森から聞いていて、少し苦味があるがジューゴが教えてくれたタンポポの葉を入れたパンを四つ作った。
「うん、出来た」
「あれ、ティ……うわっ…」
ハイムが兎を捕まえて戻って来て、ティータの裸体を見て、後ろを向く。
「う…」
仕方なくポンチョを持ってこなければと、部屋へ戻ろうとした時、ハイムがふわりと虫の布をティータにかけてきた。
「切りっぱなしの布でごめん。でも…俺…」
リムのいない地域で育ったハイムにとっては、リムは憧れらしい。
『興味だけならば、犯せばいい。私、慣れている』
ファナに歯牙がかけられる前に、ジューゴにも内緒で、ハイムに持ちかけたことがある。
ハイムの部屋で全裸になったティータに、
『俺は、ティの気持ちも含めて…くそ!』
と、ポンチョを被せられた。
それ以来、少し信頼している。
「ティ、そのリム…一度も輝いたことがないって本当か?」
カップに水を入れて、ハイムが椅子に座ったのを見て、ティータも反対側にちょこんと腰かけた。
虫の布を肩からふわりとかけただけのティータは、自分の胸の赤い花びらの痣を指で触れる。
「リムは五歳になったら、二十日花の度に楽園の箱庭に出される。私、一度もマスターとは会えていない」
ティータになついていた年下のリムが、フーパをマスターとしたが、外を恐がって無理に着いていった世界は、残酷で満ち溢れていて、ティータが失望していた矢先、ジューゴとファナに出会った。
二人のような自然の温かさが、ティータの掴みたかった世界なのに、ティータにはそれは望めない。
「もし、ティが嫌じゃなかったら、ずっとここで暮らせばいい。俺はマスターにはなれないが、いい夫でいることは出来る」
ティータの胸のリムを指差して、ハイムが男臭い笑いを見せた。
「ど変態。リムと婚姻なんて、世間の笑い者」
「う…。全てを敵に回しても、俺はティを…」
起き抜けのジューゴが頭を掻きむしり、声を張るハイムの頭を叩く。
「…いでえっ!大将っ」
「朝からうるせえよ…。お、ティータ、いいもの身に付けてるな。ショールかよ…。これなら来客が来たときに、さっと羽織れるな」
「ど変態がくれた」
ジューゴが少し驚いたような顔をして、それからニヤリと笑った。
「やるじゃん、ハイム。全裸美少女もいいが、チラリズムもか、マニアックだな…」
今度はハイムが驚いたような顔をして、それから頭を抱えたのだ。
「…目のやり場に…困るんだよ…。分かれよ、オッサン…」
ティータの目から見て気があう…と思い、
「変態とど変態、さすが」
と、何がさすがかは自分でも分からず言ってみた。
しっくりする。
「何がさすが、ですか…」
寝ぼけたファナが、裸のままぺたぺた歩いて来るので慌てて、自分の肩の布をファナにかけると、
「わーー!ヤバイって!」
とハイムが部屋から逃げ出したのを見て、思わずティータは笑ってしまった。




