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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
閑話 蒸気風呂にて
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蒸気風呂にて

花の守り人9の差し込み話になる閑話です。改稿済

「私?私のことを聞いてどうするの?別に話したくないわ」


 楽園に来る前のことをティータは話したがらないから、また、追々聞くとして、茸と不思議な香辛料の味のするスープと、兎のスパイス焼きを堪能してから、あくびを繰り返すファナ自身の俺を風呂に入れなくてはと、ハイムに尋ねる。


「もちろん風呂はある。火もいい具合だ」


と、キッチンの横の扉を開いた。


 むわ…と熱気が上がり、ティータが小さな悲鳴を上げる。


 木の香りがする熱気とベンチ、そして真ん中にある石は、外からの火にくべられ真っ赤になっていた。


「蒸気風呂…サウナか!」


「風呂はこれだろ?」


 驚くハイムの横で、俺は服を脱ぎ始める。


「あー、西はこれかあ…俺は湯張りがいいんだけどなあ。ティータ、ポンチョ脱いで」


 全裸になって、ティータと手を繋ぐと木の熱さを確かめながら、なるべく扉に近い方に座らせ、ハイムを呼んだ。


「何で腰巻き着けてるんだ?風呂だろ?」


 ハイムはきっきりと腰巻きを巻いていて、その目がちらりとティータの肢体に向けられたのを見て、


「……ああ、男の子だもんなあ」


と、自分の意思とは関係なく、コントロール出来ない劣情を精一杯堪えるハイムに、俺は吹き出しそうになる。


 まずは焼け石の熱さにじんわりと汗をかいて、次に石に水をかけて一気にその蒸気にあたり、程よく汗をかいたら部屋を出るのだが、初めてで慣れていないティータが俺にもたれ掛かった。


「ファナ様、気持ち悪い…わ…」


「ティータ、大丈夫か?出るか?」


 ティータはファナよりも少し桃色がかった程度だが、元々肌色がファナよりも健康的だからかもしれないから、気づけなかったんだな、俺は。


「…まだ、大丈夫……」


 潤んだ大きな瞳で見上げて来たところを見るとティータも限界のようで、ファナの身体に水を掛けたらすぐにと、俺は脱衣場の脇で足からゆっくり水を手桶でかけてやった。


「心臓がびっくりするから少しずつ…ティータ平気か?」


 首筋に水をかけてやりながらコップで水を飲み、蒸気風呂からティータのきつい声が聞こえて俺は立ち上がる。


 ハイムとティータを二人だけにした自分の失態に、俺は歯噛みした。


「おい、ハイ…」


「もう…ティータ、ティータって、気軽に呼ばないでくれるかしら。これはファナ様のマスターにもらった大切な名!私だけの物よ!」


 見ればハイムが手桶の水を持ち動揺し、


「じゃ…じゃあ、何て呼べば……」


「自分で考えて!」


叫ばれ、手桶の水を石に掛けてしまったのだ。


 ジュワ…と激しい湯飛沫がハイムに跳ね返り、ハイムが逃げた途端バランスを崩して、ティータにのし掛かった。


 丸みを少し持つ胸を両手で鷲掴みにされたティータが、悲鳴をあげようとして蒸気を吸い込んでむせて、呼吸が荒くなりハイムの下でカクンと気を失う。


「馬鹿!退け!」


 俺はハイムを蹴り倒すと、ティータを風を使いながら抱き上げて、居間のテーブルに降ろした。


「ティータ!」


 慌ててタオエルを掴み、とりあえず枕代わりに頭の下に入れ、呼吸確認をする。


 浅いが呼吸はあり、意識低下は脱水…。


「水を飲ませるか」


 机が高くて椅子に登りコップの水を少し含むと、ティータの真っ赤な唇にファナの小さな唇を押し当て水を流し込む。


 それを何度か繰り返すと、ティータの顔色が落ち着き、ふ…と目を開き、生理的な涙をぽろりと溢した。


「ファナ様…」


 下から抱き締めて来たティータを見て、俺は安堵の息を吐き出す。


「もう大丈夫だな。……ハイム!」


 全裸美幼女のキスシーンと抱擁を背後から口を開けて見ていたのは、目端で確認済だ。


 暴発防止の腰巻きがきつそうなのも、理解できる……が!


「ハイムッ!」


「はいっ!」


 厳しい低めの声を出し、ハイムを呼ぶ。


「国王として湯張りの風呂を所望する!風呂作りだ!これは、命令だ!すぐに取り掛かれ!」


「……は?」


「す、ぐ、に、だ!木材は裏口にあるだろうが」


 部屋を増設するとかほざいていたが、一番最初は風呂がいい。


「は…はい!」


 文字通り『裸の王様』の初命令は風呂作りで、どこかのローマ人みたいだな…と、俺は思ったのだった。

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