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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第六章 花の守り人
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花の守り人10

改稿済

 ざあ…っと風穴のあるところから風がふいてきて、


「うわ…」

 

と、俺の顔にバババッ…と何やら粒が当たる。


「王様のいるところは、風の通り道になるんだ」


 俺が見上げるとランクル一台なら通れそうな木々の規則的な隙間があり、そこから冷たい風が流れてくる。


「シャルルは俺が花作りの名人と言うんだけど、実は風の通り道の終着が家の前の広場ってなだけで、勝手に名も知らない花が次々咲くんだよ」


 シロツメクサやレンゲソウ、コスモスやオミナエシ…俺の知らない花はない。


 辺境では花になんか興味がなかったが、離れてみれば懐かしい。


「ところで、なんで『王様』呼びなわけだ?」


「尊敬を表して」


「尊敬?」


 兎の足を縛り肩にかけたハイムがひらりとした長衣を靡かせて、顔を押さえた。


「ティのあんな可愛い裸を見て、一緒に風呂だの、寝台だの…羨ましい!そして魂が男でありながら動じない素晴らしいヒトに、『様』は当たり前だろう。あ、女王とかのがいいか?」


「もう……どっちでもいい」


 ハイムの馬鹿馬鹿しい発言には、脱力すら感じる。


だが、リム姿の俺の意識が『男』であることを話し、一瞬で理解したのには驚いた。


「世界はテオスで満たされており、俺たちは様々な選択肢の中で生きている、そうモフルーの森の妖精王が話していた。だから辺境人である重吾がファナの中に入ってしまったのも、世界の選択肢の一部だろう」


 蒸気風呂の一件以来、ティータをフルネームで呼べなくなったハイムは、自分なりに考えて短縮呼びにしていた。


 これならば、ティータが応じてくれるからだ。


 十五歳と十一歳、年齢的には悪くはないし、成人期のハイムが、婚姻相手を求める、まあ、劣情を感じるのは、当たり前だ。


 しかし成人年齢が適応されるのは、『ヒト』だけで、ティータたち『リム』には関係ないのだから、合意なしに犯してしまうことも可能なのにハイムはそれをしない。


 ティータを『ヒト』と見なしている証拠だが、二十歳までしか生きられないティータの命は短すぎる。


 同じように人の腹から生まれたのに、刻印があるかなしかで、その人権が決まってしまう。


 ましてや、ファナである俺はリム同士から奇跡的にも生まれた十五年しか生きられない子どもだ。


 いや…その前に恐怖で力が暴走し、世界を歪めてしまうやもしれない…今でも力づくで押さえているところがある。


 『ファナ』…ふと思い出したが、ファナスティック…神がかる狂気…。


 時空すら凌駕する存在を手中している俺にはぴんと来るものがないのだが、とにかくファナの身体が幸せに過ごせればいいのだと、一人心地思う。


「王様これからどうすんだ?」


 茸狩りに飽きた二人が手を繋いで戻ってきて、籠をハイムに押し付け、ジューゴが教えた花冠作りにチャレンジし始めた。


「うーん…。とりあえず、風穴に行って川を封鎖する。これ以上辺境(あちら)の物を流出させるわけにはいかないからな」


 ハイムが兎と茸を抱えて、頷いて男らしく笑う。


「グランディア国王の初仕事だな」


 風の通り道からまた冷たい風が吹いてきて、ジューゴはそれが故郷の風かもしれないと思うと、帰郷の念が込み上げて来た。


「あーあ、マックとラーメン食べたいなあ…」


「はあ?なんだ、それ」


「お前には分からんご馳走だ。兎と茸のスパイスシチューのが、旨いかも知れんがな」


 しかしティータをハイムのとこに置いていくわけにも行かず、いや、そもそも、行き来出来るのかすらも分からず、考え出すと唾液が込み上げてくるそれらを封印し、


「ティータ、帰るぞ」


「待って、む…花冠壊れたわ」


 ティータがぎこちなく花冠を持ち上げた。


「俺が直してやるから」


「ティ、俺が…」


「いや、直せないくせに」


「ぐぅっ…王様、ずるい」


 ティータと手繋いで、新たなる我が家に向かった。

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