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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第六章 花の守り人
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花の守り人8

改稿済

「では、差し当たって、ハイム様と呼べばいいのかしら?」


 瞬間顔面に笑みを讃えたハイムが、


「ハイム様なんて、他人行儀な。我がティータ…ハイムと呼んでくれ」


と幸せそうに呟く。


「無理だわ」


 ティータがハイムのうっとりした様子にどん引いて、俺に目配せをしてきた。


 どうやらティータはヒトとリムの礼節を学んでおり、ヒトに対しては『様』と敬意を表す敬称をつけているが、どうにも普通のリムよりも矜持が高く博識でもある。


育ち…なのか?


「こうしとけ、とりあえず」


 ひそりと耳打ちをすると、ティータがこくりと頷き、


「私にあなたの名前を呼ばせたいのね」


と小さく呟き、ハイムが歓喜の声を上げそうになるのを、ティータが左手でぴしりと制する。


「私はファナ様のお付きのリム。私の物はファナ様の物。ファナ様の物はマスターの物」


 ハイムが深く感銘したように頷き、眠りの重吾を仰ぎ見ていて、ティータがさらに女王然と告げる。


「よってあなたの全ての地は、ファナ様のマスターの物になる」


 ティータが俺の考えた言葉を吐き、それによってのハイムの出方を見るつもりだったから少し身構えていた。


「もちろんだ。ティータと伴侶になれるなら、俺はどんな物でも投げ出す!」


 きっぱりと言い切ったハイムが、立ち上がりファナである俺に握手を求め、


「よい夫を目指す俺には、地も家も不要だ。ティータの横で修業に励む俺を認めてくれ。ええと…」


「……ファナだ」


 ティータが何回もファナ様と言っていたのに、こいつは俺の存在皆目無視…視野にも入れてなかったんか!


「そうか、では、ファナ、よろしく頼む」


 俺は死体の俺と同じくらいの長身のハイムの手を握る。


 ハイムの手は意外と硬く剣ダコが節にあり、しかし薄いよい筋肉がついており、労働者の手ではないようだ。


 俺は騙し討ちのような土地のもぎ取り方に少しだけ罪悪感を感じてはいたが、仮の解決策がなければ前に進めないのだからと、自分の御都合主義の正義感を押し通した。






「話が決まったなら、ファナ様、ポンチョを脱いで。ポンチョが泥だらけだわ。あなた、水のあり方を教えてほしいわ」


「あーはいはい」


ファナの身体を大切にしているティータには逆らえず、俺はポンチョを脱ぐとティータに投げてよこす。


「ティータ、こちらに」


いそいそとティータを案内するハイムだが、俺も女の子のリムなんだけど…と思いつつ、まあ、ほっとくことにして、裸ではなんだが気恥ずかしくもあり、適当な長さの虫絹の布を肩から羽織った。


 一件落着には何やら苦いものが込み上げるが、とりあえずここが日下博士の言う『グランディア王国』となり、俺の次の仕事はまだあるんだからな。

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