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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第六章 花の守り人
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花の守り人7

改稿済

 ハイムは癖のある赤と黒のまだら髪をわしゃわしゃと掴み、無精髭の生えた顎を俺に突き出すと、横を向いた。


「旅をする道すがら、リムを嫁取る(めとる)には、土地が必要だって聞いたんだ。それからは土地をくれるところを探し回ったら、テオに会って…」


 俺は嫌な予感がして、ハイムに聞いてみる。


「それで…結婚を?」


 ハイムが


「当たりだ!だって胸に刻印があるからリムだ!結婚を…って膝をつく前に、銀の剣の風圧で凪ぎ払われて、ひっくり返しになってさあ、さらにお願いして…で、この地を貰ったんだ」


と、嬉しそうに話すのを見て、俺はこめかみを押さえた。


 銀の剣の持ち主シャルルは意外と焼き餅焼きらしいし、つまりはどうにもハイムのことが面倒になったテオが、光の毒で作物の育ちにくい北と東の端境を、ハイムにくれてやったのが真相のようだ。


 それにしても、この目の前にいる顔面の濃い男は、この世界で通用するかわからない言葉が、ぴったりと当てはまる。


「あなた、間違いなく掛け値なしのお馬鹿さんね」


 ティータの暴言に俺は良く言ったと、口端が歪みそうになった。


 しかし当の本人は、嬉しそうにティータを見つめ、


「そうなんだ。兄上たちにも『戦闘しか能のない馬鹿』って言われてた。ああ、やっぱり、ティータはすごいなあ。広い額は頭の良い証だと聞いていたが、可愛くて頭もいい。俺…一目惚れした」


と、熱く語り出した。


「あのなあ…本来リムを嫁取めとるってのは、伴侶にする意味じゃない。リムの刻印が輝いて、主を認めた『使役』の証で、婚姻とは違う。リムを可愛がるのは主の役目らしいが、ティータの胸の痣は光ってない。つまり、ハイム、お前は認められてな…」


 俺がエバグリーンから聞いた付け焼き刃の知識を話していると、


「一目惚れした女の子に結婚してほしいと言うのは、だめなことか?俺はティータの知性と品のよさと、可愛さと…」


と、ハイムが恍惚な呟きを繋いでいく。


「お馬鹿さんの上にど変態…」


 ティータが俺にしがみつくが、俺は正直驚いていた。


 ティータを一人の女の子として見ているハイムはリムだとか考えていないらしいが、リムと人間では婚姻しても子は出来ない。


 リムには毒の光が身体中に満たされている…それは過去の遺物であり、辺境では過ぎ去った過去だが、ここでは残穢のように人を着実に蝕み至るのだ。


「ティータ…俺を夫にしてくれ!きっと幸せになる」


 お前が幸せになるだろうがな…と俺が考え込んでいると、ハイムがティータを見つめて再度告白したを、ティータが再度拒絶した。


「幸せにはならないわ」


 ティータがつんと横を向いてしまうので、ハイムが慌てて立ち上がり、ティータの横に片膝をつく。


「俺が幸せになる。ティータはいつか俺の存在に慣れるから。ここはティータの家だ。部屋は三つあるし、虫の布もたくさん取り寄せた。あとは…」


 目を閉じてさらにうにゃうにゃ考えているハイムの様子を見ながら俺は、ひそ…とティータに耳打ちをした。


 正直、このままではらちが明かん。


「……わかったわ。さすがファナ様。意外と腹黒いのね」


 あまり誉められた内容ではないが、ティータはこの地の大切さを理解しているようで、ティータは椅子から降りてハイムの前に立ち、女王よろしく右手をハイムに差し出す。


「いいわ。ここにいてあげる」


「おお、ティータ」


 恭しく右手を両手で取ると、日に焼けた肌のハイムがその小さな手に額付いいたのだった。

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