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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第六章 花の守り人
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花の守り人5

改稿済

 それにしても見事な花畑だと、俺は今度は見渡す限り一面の菜の花を見て思う。


一面の菜の花、一面の菜の花…だ。


 シャルルの屋敷からランクルで小一時間走った東の森一帯が、日下博士により『ファナ』に差し出された『グランディア王国』の領土だった。


 元々光の毒に晒されたそこに住み着く者はなく、シャルルたちが見回りに向かう程度の荒れ地だったと聞いている…確かに全くヒトがいない。


 花が咲き始めたそこから領土はスタートし、一応馬車が一台通ることのできる道があり、深い森は開けた低木になり草花がそよぐ美しい場所に、丸太を組み上げた大きなログハウスが建っていた。


「カナダのログハウスかよ…」


 頭の中にはあの曲と、アルプスと犬と子どもたちがくるくるリフレインしてしまうくらいの酷似に、完全な木造建築に男の名前ときたら、住宅メーカーのそれだ。


ギャップありすぎだろうが。


「まあまあな感じね、あなた」


「そーだろー、ファナ。リムは木の家が好きで、虫の糸の布を用意して、リムをお迎えする」


 ティータをランクルに乗せ、ランクルの運転席の横を歩きながら風を使いランクルのハンドルの遠隔操作をする俺が、その隣を歩くハイムを悔しくも見上げると、


「どうだ、帰りたくなる家だろう?」


と笑う顔に、住宅メーカーのCM が浮かんでしまい、俺は溜め息をついた。


 果たして、こんな立派な家を建てた土地を明け渡せと、言っていいもんだろうか…。


 ランクルをウッドデッキの前に停車し、ティータを降ろして、ハイムの家に入ると柔らかな絹がふんだんに使ったリビングダイニングが現れ、ティータが


「リムを迎える家としては合格点よ」


と告げ、ハイムが破顔する。


 確かに玄関扉を開けた広間は広く、これをくれなどとは言えないなあ…と、俺はなんだかもやもやした気分になった。


 テーブルで薄い茶を飲みながら俺は仕方なしくハイムにかい摘まんで話をすると、ハイムがあっさり頷いたから、本気で驚いたわけなんだが…。


「元々テオが勝手に勘違いしてくれた土地だし、別にいいさ。だけど、代わりにティータを、俺にくれないか?」


 しかし言い出した交換条件が、俺にとっては一大事だった。


「は?はいそうですかと、やるわけないだろ。人権侵害で逮捕するぞ、この野郎」


「タイホ?なんのことだ」


 俺とハイムのテーブル越しのにらみ合いが続き、


「……分かった」


と、ティータが小さな声で告げ、椅子からそっと降りた。


「ティータ、ダメだ」


「大丈夫、ファナ様。私、平気。馴れてる」


「ダメだ!お前も売春防止法で逮捕するぞ」


 家の代わりに、ティータが犠牲になるとか、黙ってはいられない。


 椅子から立ち上がると、ハイムが小馬鹿にするように口端を歪めた。


「闘ってぶん取る方向か?言っとくけど、俺は…」


「ファナ様のが、強いわ」


 間髪入れず、ティータがハイムに言い放つ。


「何?」


「さっきの花畑。ファナ様はあなたの足を蹴って、そのまま鳩尾を突いてた。あのままではあなたの負けよ」


「ぐっ…」


 ハイムが呻いた。


「刀を振り回すだけのあなたは、ファナ様に勝てない。だから、実力行使は無意味よ」


 図星だった。


 ティータの慧眼には恐れ入る。


 確かに俺は防戦しつつどうにもならなくなったら、膝に蹴りを入れ体勢が崩れた瞬間に、トンファをぐんと伸ばすつもりだった。


 上背のある人間との小競り合いは、足元を掬うのが基本だ。


 ティータはそれを、冷静に見ていたということになる。


 そう驚愕していると、ティータがハイムを伴い隣の部屋に移動し、俺は俺の死体と取り残された


「ファナ様、来ないで。私、見られたくないわ」


 ぱたり…と、扉を締める。


「おい、ティータ!」


「来ないで」


 ティータの掠れるような小さな声が、木の扉から聞こえた。

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