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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第六章 花の守り人
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花の守り人3

改稿済

 石造りの屋敷から東にランクルを走らせると、道端にちらほらと花が咲いているのが見え、それが森へと続いている。


「大聖堂の回りには、花なんか咲いてなかったのに、こいつはすごい」


 俺の言葉にティータは小さく頷いて、窓の外から目を逸らした。


「こんな花、楽園でも見たわ。珍しくもないわ。黙って運転」


「はいはい、今まで忙しかったからさあ。なんていうか観光みたいな感じがして…」


「お馬鹿さんは、お馬鹿さんね。私が横にいなきゃ、ファナ様のお身体が傷ついてしまうわ」


 とは言え脇見運転だ。


 見事に咲いている花は懐かしい感じがして…ああ…コスモスだ…レンゲ草とシロツメクサと…ははっ…春夏秋混雑している。


 しばらく沈黙してから


「………俺さあ、十五歳で死んじゃうわけ?」


とティータにさらりと聞くと、ティータの驚いた顔が肯定を示していた。


「……大丈夫、私が一緒よ」


 ティータはふかぶかとフードを被り、ネコ耳の部分を両手で握りしめた。


「ずっとマスターとファナ様と…一緒…」


 あと少ししか生きられないってわけ…か。


「言えなくて…ずっと言えなくて…」


 ブルネットの広い額の中ですごい悩んだのだろうティータは、ぼろぼろと泣き出した。


 リムは二十年程度…。

 

 マスターのいないフリーのリムは寿命を全うすることは稀だと聞いているし、俺はファナのマスターも兼ねていて、正直どうなるかだ。


「ファナ様…大丈夫…大丈夫よ…」


 心配したティータがぎゅう…と抱き締めてくれたが、当のティータの涙が止まらなかった。


「おし、ランクル、止まるぞ。これ以上は、花を踏み荒らす」


 ランクルが停車して俺がランクルから降りて、花を茎から取るとそっと組み始める。


 しばらくして、


「出来るもんだな~。これを昔取った杵柄とかいうやつだな…」


と呟き、後部座席の扉を開き、泣き止めないでいるティータの手を取ってランクルから降ろして、白と緑の広がる花畑に立たせた。


 回りは白い小さな花と、先が桃色の小さな花で覆われている。


「シロツメクサっていうんだ。辺境にもよく咲いていた。ピンクのはレンゲソウ」


 ティータのフードを外し、頭に足元の花と同じ白い花の花冠が乗せた。


「花冠。うん、可愛い。よく似合う」


「ファナ様…」


 花びらがたくさん集まって小さな丸い玉のような白い花を編み込んだ花冠…ティータはほろりと涙を流した。


 立ち尽くして涙を流すティータを、ファナの姿の俺はそっと抱き締め、


「俺にはモルトの寿命がわからん。だけど、ファナとティータのそばにずーっといて、そのあとは俺もどうなるやら」


と呟く。


 ティータは


「本当に…お馬鹿さんね…マスターは…」


と、無力で小さな子どものように、俺にしがみついた。


「大丈夫だって、俺はファナとの合成だ。そう簡単には死なないはず……だ。下がってろ、ティータ」


「きゃ…」


 ティータをランクルのところにそっと突き飛ばした俺は、低い体勢からポケットに手を伸ばした。

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