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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第六章 花の守り人
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花の守り人2

改稿済

 言い切ってからの沈黙のあと、シャルルの肩が震えている。


 言い過ぎたのかも知れないと、俺は少しばかり不安になった。


「気を悪くしたか?シャルル、俺は…」


「ファナ・ティア・モルト…お前は…前に会った時より雰囲気が違う」


 シャルルが顔を上げ、


「以前のお前はただ俺を恐がる小さな子どもだった。クサカ先生がテオの伴侶になるよう告げた時も、泣きながら頷き頭を下げるリムだった。俺はそんなファナが大嫌いだったのだ」


「シャルル…俺は…」


「しかしこの揺るぎない信念。さすが、女王たるモルトだ。俺もそうあらねばならん。ファナ、礼を言うぞ」


と笑っているシャルルの目尻には涙が溜まり、それを振り払うかのように頭を振るシャルルが、俺の左手を取り片膝をついてその甲に唇を寄せる。


「改めまして…グランディア王国の未来の女王よ、以後お見知りおきを。我が名は……」


 シャルルの真実の名を知り、その突然の行動に驚いていると、


「……っ!ファナ!お前にシャルルは渡さないっ!」


と盛大に扉を開けて部屋に飛び込んできたテオが、シャルルを引き寄せ、俺から瞬時に離した。


「ファナ、シャルルは渡したくない…俺の唯一の宝なんだ。だからごめん、お前とは伴侶にはならない」


「いらねーよ、両思いめ」


 天然と思い込み大魔王どもは、相思相愛で日下博士の思い通りにはならないってもんだ。


「え、あ?シャルル、あーばーれーるーなって」


「離せ!傷が開いたのは、お前が連日無茶をするからだ!このっ…」


 じたばたと振り払おうとするシャルルの唇を、テオが唇で塞ぐの姿を俺は間近で見る羽目になってしまい、その美しい二人の姿に宗教画みたいだなあと思った。


「愛を確かめ合うのに、時間が足りない。無茶もするさ」


 抵抗を止めたシャルルがテオのローブを握りしめ、テオの肩口に顔を埋め、テオが嬉しそうに柔らかな髪を撫でながら目を細めた。


「ファナ」


「おう、観念したか。幸せにな」


「ああ。しかし俺たちも、モルトのお前も、生涯は短い。生き急げよ」


 寝台にシャルルを押し込んだテオが、振り向きもせず告げた言葉が、俺にとっては実はどうなもんなのかと感じていた。


 リムとヒトとの生きる時間の違い…。


 辺境人の生きる時間は長いと聞いたが、ファナの肉体に辺境人の魂を宿した俺の場合はどうなるんだ。


 部屋を出るために頭を下げた俺の目線の先には、黒のローブを脱いだテオのしなやかな肢体と、リムの刻印に唇で触れるシャルルの姿があった。


 幸せそうなテオの切ないような嬉しいような瞳がとても印象的で、それがリムとヒトとの垣根を超えた在り方の形に思えてならない。


 宗教画が宗教画で萌えないもんだな…と不謹慎にも思ったのは、ファナちゃんではなく、俺だ。

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