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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第六章 花の守り人
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花の守り人1

改稿済

 シャルルの部屋はジューゴの言う『虫絹』で溢れていた。


 カーペットもカーテンも全てがそうで、シャルルの服もリムの着るそれと同じだ。


「シャルル、体調はどうだ?」


 俺は文書処理のために再び連れていかれたティータと別れ、シャルルのお見舞いに部屋に入った。


「心配をかけたな、大事ない」


 シャルルは寝間着ではなく、ブラウスとズボンの部屋着で机に書き散らした紙を整頓していた。


「でも傷が…起きて平気か?」


「文書の整理くらいはできる。剣はまだ持てないがな」


 シャルルは背後から光を浴びて、柔らかなうねりのある灰茶の髪が透けて、おとぎ話のの登場人物みたいに綺麗だ。


「お前は可憐だな。エアもエイドリアンも美しいリムだった。父母のよいところを得たな、ファナ。これならテオも惚れるはずだ」


「………なに?」


 忘れていて右目の濁りを隠した俺に、シャルルがふわりと笑いかける。


「『凶眼』は気にするな。お前たちならば、良い伴侶になれよう。俺はお前たちを守る」


「そりゃ……ないだろう…」


 どうやらシャルルは俺とテオが結婚するとかしないとか話しているらしいのだが…男の俺が?男のテオと?ありえなくないか?


「この地は風穴が近いせいか、リムが出現しやすい。辺境の光の毒を多く受けたからだろうと、クサカ先生は話していた。実際、我が家は黒のリムが何代も前から現れ、モルトすら現れることがあった」


 よく考えなくても、俺は今ファナでリムの中では成人を過ぎた女の子だ。


 俺の動揺を気付かず、シャルルは窓側を向いて話し続けている。


「俺の大叔母上はモルトで、生まれた瞬間に屋敷が半分ぶっ飛び、すさまじい光を放ったとクサカ先生は話していた」


 凄まじい光を…ファナが生まれた時は、どうだったのだろう…。



「クサカ先生は…だから、お前を身ごもったエアを連れていき人のいないところで出産させたのだろう。そして時空を越えるモルトの本質は主を得ること。そのために放浪すら厭わない。大叔母上は『凶眼』の噂に守られ、放浪した挙げ句、十五年の寿命を全うした」


「十五年…二十年じゃないんだ」


 シャルルがそれに頷き、ソファに案内して座らせてくれた。


死体の重吾は屋敷の部屋に置いて来たが、隣の隣で大丈夫なはずだ。


「モルトはリムよりも光の毒を強く持つ。だからこそ強い力を持つ…知らなかったのか?」


 シャルルの言葉に、俺は当たり前だが頷く。


「そうか…ファナはいくつだ?」


「こ…九歳だっけかな」


 シャルルが秀麗な眉をひそめ、


「あと、六年か…。俺もテオも成人し十五だ。あと五年だ。大地の力を得た銀の聖騎士たる俺も、リム同様短い命だ。だから早い方がいい」


と、自嘲気味に微笑む。


 それからふ…と柔らかな微笑みに変わった。


「テオは美しかろう。見事な赤毛と若芽のように輝きを持つ瞳…。俺はテオのマスターにはなりたくなかった。兄として敬愛してしたからだ。なのに…あの馬鹿!」


「うを…」


 ダン…と机を叩く激昂に俺は意外で驚く。


「しかも…!俺に、あんな…あんな…辱しめを…」


「辱しめ?」


「いや、まあ、とにかくだ!俺は対等の関係でいたいのに、テオは…」


 ああ、なるほど、と俺は思う。


 シャルルはテオを人と認めているから、憤るのだ。


 しかももう一つ…ありそうだ。


「シャルル、俺はテオの伴侶になる気はないぜ。日下博士が決めたのかもしれんが、人体実験は真っ平だ。ただでさえ俺自身が厄介なのに。お前がテオのマスターでテオの伴侶になればいい」


と、告げた。

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