銀の聖騎士10
改稿済
「あの人、リムなのに、なんか偉そうね」
「あの、ティータさん。領主…いや、ジュリアス王国の国王だしなあ」
屋敷の大広間にシャルルとテオと、母に抱かれた小さな弟が一段高いところへ、そして王座として据えられた椅子には、黒のリムコートを着たテオが座り、横に銀の騎士であるシャルルが立っていた。
領地の村長が当たり前のようにテオに頭を下げ、父ジュリアスが理想としていた形がここにあるのを見てとれる。
「私たちどうしてここにいるのかしら」
ティータが戸惑うのも、無理はない。
ジューゴたちは、一段低いものの王座の右側に立たされ、館の使用人にかしずかれていた。
「良く集まってくれた」
シャルルがトン…と銀の剣の鞘の先端で地を鳴らす。
「亡き父ジュリアスの遺言通り、長兄のテオ…テオドールをジュリアス王国領の君主とし、グランツの眠る大聖堂の守り頭と位置付ける」
「人としての名前を与えられていた…」
聞いていたティータがぽそりと呟いたのを、ジューゴは
「リムと人の名前に差があるのか?」
聞いて尋ね、ティータが頷いた。
「リムには本来名前がない。マスターがつけるものだから。テオ様は生まれながらにしてシャルル様のリムであり、亡きお父上様はリムとして『テオ』、ヒトとして『テオドール』と分けた…」
つまり…ヒトと同じように学び、ヒト以上の力をもつ『者』が、国王になったのだ。
そしてそれを当然のこととして、国民たらん村々の代表は受け入れている。
「俺は銀の聖騎士として、地に生きるリム全てを守りテオドールを支えていく。異論の有るものは、今すぐ去れ」
誰もが黒衣のリムを統治者を認め頭を下げており、テオがファナに注目するよう手を伸ばして紹介をしてきた。
「亡き父ジュリアスの友であり、我が師でもあるクサカの予言したリム。隣国グランティア王国の女王なになられる、ファナ・ティア・モルトだ」
ざわめきが一気に広がり、
「グランディアの…」
「グランディア王…彼が…」
と、口々に囁かれ、その中の一人の老人が俺の前に現れた。
「グランディア女王、あなた様はわしのリム…エアの子どもですか?」
良くわからん展開になってきたと俺は困り果てるが、今こそ『凶眼』を逆手に取ることにする。
目深に被ったウサギフードを外しファナが嫌っていた右目に片手で触れると、光屈折で変えていた色を晒す。
「ひっ…」
老人がファナの右目の墨を流したような白眼に腰を抜かし、
「『凶眼』…」
と後ずさる。
それを制したのはテオだった。
「大事ない。お前のリム、エアと、我が父のリム、エイドリアンの子どものファナだ。生まれた『凶眼』にはマスターがいる。ファナの主である、マスターグランディア『眠りの重吾』が、全ての災難を被るのだから、皆には害はない」
言い放ったキオの発言に村長は感嘆の声をあげ、
「うそお……」
と、俺は椅子に腰掛けたままの俺の死体を見てから、視線をテオに向けた。
ちょろすぎる…いや、素直すぎる。
テオが人差し指を唇に置き、俺に喋らないように沈黙規制をかけ更に告げた。
「グランディア女王は、我が銀の騎士シャルルの窮地を救った。今後も手を取り合うことを誓おう」
手を伸ばしたテオの手に握手するしかなく、俺は自分の国とやらをお膳立てされた挙げ句共闘宣言までされたのだが。
「あ、えっと…どーも…」
自分の領土すらよく分からず今から向かうのだから、俺にとって雲を掴む感じだ。
握手をした途端、部屋中の人々のどよめきと拍手が起こる。
シャルルがふい…と横を向いたのが気になった。