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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第五章 銀の聖騎士
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銀の聖騎士9

改稿済

「クサカ先生の『予言』は、我が父から聞いている。父はクサカを尊敬し師事していた。勿論、俺もシャルルもクサカ先生から様々な思想を得た。『国』と言う概念も理解しているつもりだ」


 漠然とした『領地』から『国』へのシフトは、ガーランド王国のそれとあまり変わりはないようだ。


 一定区域の人や土地の統治は、その思想すら統治してしまう可能性があり、開墾地私的所有を各々の領地としていた『荘園』よりも、重いものになる。


 思い巡らせていると、テオがくすりと笑った。


「あまり思い詰めるなよ。国となったからといえ、我が領地を守るだけだ。増やそうとも思わない。俺の役目は大聖堂に眠る魂の安らぎを守ること。シャルルは領地を視察し領地の安定を図る。それだけなんだ」


 今までと変わらない…ガーランド王国が攻めてこなければ…だ。


 そこに刺さる言葉に、俺は唸る。


 そして、思い起こした。


「アギト川の源流は二股に別れている…。支流イア川の封鎖をしないと…いけないんだっけか」


「ああ、クサカはそのつもりで、あの地をファナに任せたいと言っていたのだろう…が…」 


「…が?」


「そこに住み着いてしまった奴がいて…。てっきりクサカ先生の使いだと思って、領地に住まわせてやり…」


「はあ…」


 多分、俺の表情が曖昧だったからだと思うが、慌ててテオが取り繕う。


「俺はてっきり辺境人だと思ったんだよ!だって黒髪だったから」


 黒髪…俺はテオに詰め寄り、思わず捲し立てた。


「黒髪!子どもか?日本人…ええと辺境人だよな?様子は?怪我はないのか!」


 詰め寄り顔が近くなった俺に、テオが後退り両手で俺の体を押し返す。


「まーった、待った。待て、違う、背の高い大人だ。多分、子どもじゃない」


「は?」


「だから、黒髪だが大人だったし、土地が欲しいと言い出したんだ。リムがどうとか言い出したから、監視することにしたんだが…。ただ、花作りのうまい無害なでかい男で…」


「はあ…」


と力なく呟いた俺の腹がぐうう…と鳴り、テオに笑われてしまい、俺はうさぎ耳フードをかぶり、恥ずかしさに耳を倒して顔を隠した。




「ファナ様、ちょっと」


 朝食は既に用意されていて、俺は部屋に戻ると困り顔のティータに手を引っ張られ、部屋の端に連れていかれる。


「ファナ様、出て行ってばっかりね」


「日下博士のことを考えていてな…」


「そうね、実際、『ファナ様』は『生きて』いるんだもの。実現されてしまうわ」


 部屋は虫絹でしつらえた絹調度品で溢れ、テオがリムでありながら大切にされているのがわかる。


「グランツ・クサカ…亡くなったていたのね…」


と、浅く何度も呼吸をしながら言う。


「ああ…ガゼル…いや、ラーンスが瀕死で亡くなった博士をここまで連れてきたらしい。詳しいことはラーンスに聞かなきゃなんないが…俺は…ファナの記憶からラーンスがガゼルと名乗っていたのを知っている。ラビットがその場にいたから分かるかもだな…」


「あのダグラム隊の金髪の…」


 ティータの頭をぽんと撫でながら、


「…らしい。半年前は壊疽まみれで壊死寸前だった。あの時はリムとしてマグルって呼ばれていたな。ラーンスに色々聞いてみよう」


と俺は告げ、再び空腹を腹の音で確認し、


「食べよう」


と食事の席に座ると、ティータも慌てて寄ってきて、俺にパンを差し出す。


「パン。ファナ様甘いパン好きだから…」


 ティータからパンを受け取りパンを少しずつ食べ始めると、ティータも食事するように言い、


「うわっ…砂糖すげ…ラビットのシチューが恋しいなあ…」


と呟いた。


 とにかく出される食事が甘いのだ。


「北の食事は甘いものよ、冬を乗り越えるために。私たちリムは大地の加護のために寒暖を感じないけれど…」


 確かに寒いとか…暑いはないが、冷たい、寒いは感じる…でもそんじゃなきゃ裸体に布一枚なんてありえないか…。


 まだまだリム生活には慣れないもんだなと、俺は甘い蕪みたいな野菜スープを口にした。


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