銀の聖騎士6
改稿済
シャルルが剣を構えたが、飛んでくる四つ輪からひょこりと顔を出した白のリムが無邪気に手を振ってくるのを見て膝を付いた。
「シャルル、血が…」
「大丈夫だ。それよりも…お前の白い肌に傷が…」
テオが泣きそうになりながらしがみついてきて、ほ…っと息を吐き膝を付いたまま抱き締める。
鉄の四つ輪がゆっくりと降りてきて、手を振って来たリムがぴょこんと飛び出して、バスケットを持ってシャルルの方に走ってきた。
「ファナ様、待って」
もう一人白のリムが出てきて、シャルルとテオの所に走ってくる。
「待てない。奴らけがをしている」
リムのやり取りを聞いていたシャルルとテオの前に、知り合いのはずのリムがやって来て、
「怪我を見せろ」
と、バスケットを差し出してくる。
覚えていないのか…確かに会ったのは幼少のみぎりだが…。
シャルルはそのリムに…渋々頭を下げた。
「すまないが、屋敷で頼む」
「しかし…」
「大聖堂のグランツが気になる」
「大丈夫だ、俺が見てくる」
テオが大聖堂に行ってしまうとシャルルは手当をやんわりと断り、ぼろぼろになった騎士団のコートを着ている男がよろよろとやって来るのを目端で追い、男が辿り着く前に屋敷から使用人が飛び出して来る。
「お二方様!」
事態が終息するまで屋敷で待機させていた使用人達が、シャルルの元に走り寄ってきたのだ。
「大事ない。まだ息のあるものを屋敷に運べ。俺は大聖堂を見に行く」
息のあるもの…騎士団長くらいかもしれないが…もはや騎士復帰はままならないだろうと、シャルルは立ち上がる。
「俺より…テオの傷を見てくれ」
シャルルのそれには答えず、反対にシャルルがブルネットのリムに睨まれた。
「ご自身の方がひどい怪我なのに、あなたもお馬鹿さんなの?」
と、初対面の生意気そうなリムに言われ、成人して間もないのにシャルルは大人げなく気分を害した。
「ファナにテオの怪我を見て欲しい」
「シャルル!グランツ…多分…もう…」
シャルルに駆け寄り抱きついていたテオがぼそりと呟き、マーブルラムの雰囲気から簡単に察することが出来る。
脇腹と肩の傷は出血まだあるものの、治療をするよりグランツの安否確認の方が大切だ。
「大聖堂に向かう。お前たちも着いてくるといい」
開け放たれたままの薄暗い廊下を下がっていくと、大聖堂の石棺に寄りかかる姿が見えた。
血の引きづる痕がありグランツがクサカの棺に辿り着き息絶えた血溜まりは、胸を刺されたそこから旧友の眠る棺を繋ぐようで、シャルルが置いた花をも濡らしている。
「すまない…グランツ」
すると小さなリムが
「日下博士…」
と、クサカの棺を覗き込み絶句した。
大聖堂で安置した遺体は腐らず乾いていく、クサカも連れてこられたままに、乾いてその姿を留めている。
「日下部博士…ここに辿り着いたのか?」
「いや、ラーンスが運んできた時にはクサカはこと切れていた。生きていたのはラーンスのみ…だった…っ…」
目眩がしてシャルルは、手にしていた剣の鞘を床につけ体を支えた。
「シャルル…顔色が…」
「大丈夫…大丈夫だ、テオ」
嫌な汗が出ているシャルルは、テオが支えようとするのを避けて、しかし、たたらを踏む。
「おっ…と」
小さなリムがシャルルを支えてくれ、シャルルは慌ててその手を払い除けた。
「あの女の剣に毒でも塗ってあったかも知れないな。早めに処置した方がいい。失礼」
ぞわぞわと寒気さえするシャルルだったが、そのままひょいと信じられないが小さなリムに抱き上げられ、力が入らない指先から剣が音を立てて落ちる。
「シャルル…おい、お前」
テオが剣を慌てて持ち、歩き始めた白いうさぎ耳のポンチョの後を追い、
「黒のリム君は剣を持って来てくれ。ファナ、ティータ、バスケットを頼む」
「わかったわ。ランクルはそのままでいいの?」
「今なら大丈夫だろう……こっちだろうな」
と、話しながら躊躇なく道を選び、まるで屋敷への通路を知っているようで、シャルルは驚いて知っているはずのリムであり、知らないそぶりのリムを見上げた。




