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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第一章 フーパの屋敷にて
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フーパの屋敷にて4

改稿済

 リムとフーパをここで葬ることになり、フーパの屋敷の土を掘り起こしながら、ダグラムが老執事に何やら話していた。


「旦那様は素晴らしい農夫でしたが、反面面倒臭がりの傾向にありました。以前のリムもリム狩りから買い、今回もリム狩りから買ったのですが、盗賊団に居座られてしまい…」


 だからこそ無法地帯となったわけだ。


「リムは白の楽園に赴きリムが契約したい相手と認められ、はじめて娶る事が出来る。それを怠ったフーパの領地は解体し、近隣の村で分け合うが、よいな?」


「はい…わかっております」


 老執事はうな垂れたが、それが掟なのだと諭されフーパに土をかけはじめている村人を見やった。


「騎士様、この死体はどうします?あと…この生きた鉄なんですが大きすぎて」


 まだ泣き縋るブルネットのリムを何とは無しに見ていたラーンスに、別の担架がやって来る。


「死体なら埋めればいいじゃん」


「しかし…変わった衣装で…黒髪なんですが…」


 黒髪と聞いてラーンスは慌ててマクファーレンとダグラムを呼んだ。


「黒髪の死体なら…辺境人か?」


 ラーンスが見下ろすとダグラムより上背のある男が、ぐったりと担架からはみ出している。


 髪は黒くて癖っ毛で左の上部にべったりと血が固まっていたが、致命傷ではないはずだ。


「辺境人は髪が黒いと聞いていたが…本当だったのだな」


「死体だけどね。埋めちゃえば?」


「辺境人なら楽園に届けるべきだよ。死体でもさ」


 マクファーレンの言うことはもっともだ。


 楽園騎士団は楽園にいる辺境人のグランツに組織された、リムを守りリムを適切に扱っているかを管理する騎士団だ。


 そしてもう一つの使命は、東北地域の風穴からやってくるという辺境人の保護だった。


「ああ、葬るなら楽園に葬るればいい。厄介なのは生きた鉄だな…ここまで大きいのは…」


 しかも四つ輪が付いていて、まるで幌馬車のような乗り物に見える。


 風穴から溢れる辺境の遺物らしいのだが、赤茶けた柔らかな塊はうごうごと黒髪の辺境人のところに寄ろうとしている。


「んじゃ、まあ、死んじゃったリムを埋めてからだよね。リムの横に担架置いて」


 生きた鉄までうごうご付いてくる。


「あの辺境人の持ち物だったのかなあ。隊長、これは持っていけないの?」


「無理だ。ラーンス、お前も手伝ってくれ」


「はいよー」


と、ラーンスが辺境人の死体の横に置かれた金髪のリムに触れようとすると、


「だめ!だめ!だめ!ファナ様は…」


 ブルネットのリムが泣き叫びながら縋り付く。


「だってさあ、首の骨を折られたんだよ」


 つまり死んでいるわけなのだが、このリムが離れやしないのだ。


「ねえ、どうす…」


 辺境人を横に置いた子どもの遺体がびくりと動いた。


「うわ…」


 金髪のリムが首が折れた状態からくっ…と戻り、青い目を開いたが右目だけが白眼が黒く濁る少女が、むくりと起き上がった。


「え?」


「え?」


「え?」


 死体リムにすがるリムと、ラーンスと、死体のはずのリムが同時に呟く。


「死んでた…はず…」


「いってててて…真っ逆さまに落ちるなんて…」


と、小さな首を押さえて髪を払ったのだ。


「ファナ…様?」


 泣きすがっていたリムが不安そうな声を上げる。


「ん…と…君、裸じゃないか!大丈夫か、ご両親は…ひどい有様だな、警察手帳を…」


 とむっくり起き上がる金髪碧眼の少女は、自分の手を見て驚いたような顔をしていた。


「あのー、首ぽっきり折れて死んだはずのリムさんやー」


 とりあえずラーンスが前に立ちはだかると、リムがキッと目を上げてきた。


「俺は鈴木重吾、警察官だ」


「それって、これのこと?」


 ラーンスが指さしたその長々とぐったりしている男をみて、リムが悲鳴のような大声をあげたのだった。








 中央楽園騎士団っていうゴージャスな建物は、こちらで言うところの自警団らしく、その食堂の店の中には、楽園騎士団の人間が夕方から夜にかけて晩餐に興じており、一人の男が俺を見つけて声をかけて来た。


 腹が減ったと言ったら、ここに少し居てくれと言われたからいたんだが、どうにも避けられている気がする。


「お前さんが鈴木重吾か。中身だけ辺境人なんて珍しいな」


 耳カチューシャをつけたむっちりとしたハーフパンツをローライズした給仕バニーガールが、尻を振りながら持ってきた皿を、俺は「ありがと」と受け取った。


「リムのくせに」


 は?


 なんかひどい扱いされていないか?


「んで、こっちがお前さんの身体なんだな」


「まあな」


 皿を持ち上げ流し込み咀嚼すると、うれがまたうまい。


 兎肉の噛めば肉汁が溢れ出す美味すぎる肉を手早く堪能し、禿げ上がったいかつい大男のラビット…さっき名前を教えてもらった料理長に


「おかわり」


 と、皿を差し出した。


 ラビットの右目には黒い革の眼帯があり、鉤裂きの傷が顔面にあるのを隠しきれていないため、限りなく人相を悪くしているが、料理の腕がいいからだろう。


 人気があるのようで、みんなが挨拶をして行き、ラビットは俺に兎シチューをおかわりとして注ぐと、見下ろしてから隣に座った。


と、いうか、俺の死体の横にだ。


「本当に信じられないくらい見事な黒髪だ。瞳も真っ黒じゃないか。珍しい、珍しいな。重吾とやらはどうしてここに?」


 どうして…と言われても、俺は考えつつ答えあぐねる。


「崖から落ちたんだよ。それから…光に包まれて…で、この身体の中にいて、俺の身体はそこでダルそうにしてる」


 目立つからと楽園騎士団の服を着せられている俺の身体はぐったりとしているのだけど、あり得ないことに生きている死体らしく、でも仮死でも無い状態らしく…よくわからん。


「初めてだな、このケースは。俺たちはリムを保護しつつ、迷い込んだ辺境人も保護している…だが…」


「俺の他にも別世界人かいるのか?」


「楽園のグランツたちがそうだ。しかし、少し待ってくれ、上に話してこよう」


 ラビットがまだ何かを話したそうだったが、厨房に呼ばれて行ってしまった。

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