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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第五章 銀の聖騎士
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銀の聖騎士3

改稿済

 しかもこのリムはほんの少し前までここにいたのだから、見覚えがあった。


 確か…東の駐屯地の騎士についたリムで、優しい気質のリムだ。


 東の駐屯地の騎士は老齢で、「この年にして初めてリムを頂けた」と泣き、「二人で騎士の本懐を遂げる」と東へ旅立っていったのだ。


 そのときのうれしそうな顔が眩しかったのをシャルルは覚えている。


 なのに…。


「お前…こんなに…ひどい姿に…」


 黒のローブから伸びた腕には人を傷つけた時の罰のような壊阻が拡がり、濁った肌の爛れを隠すために包帯を巻いている。


「はっ…黒のリムなんて使い捨てだ。人の形をしただけの家畜同然の化け物なんて!」


 チロルハートの絶叫した笑い声が、シャルルの耳に突き刺さる。


「化け物…だと…」


 あの美しいテオが…化け物…。


「やれ、シャール」


 シャールが泣きながら両手を伸ばし、掌に集める闇はするどい黒の氷柱になり、それを放射状に配置したシャールはまるで、黒い太陽を背にした高貴な何かに見えた。


「ごめんなさい、シャルル様…っ!」


 シャルルは銀の剣を地にざくりと刺して、ふーっと息を吐いてから腰を落とし黒氷柱が一斉に向かってやってくるのを待った。


「聖騎士様っ…ぐあっ…」


 剣に掴まりなんとかやってこようとする騎士団長が、背後から男に斬られるのを横目で見たが、シャルルは一瞥しただけだ。


 それが男のあからさまなるやらせで、シャルルの気を散らすためだけに手慰んでいたのを理解していた。


 現に息絶えていず、騎士団長が這いつくばるように蠢いている。


 黒氷柱が一気にシャルルを貫くのを、誰もが予想していた。


「死ねよ、ガキ!」


 チロルハートの笑い声が響く中、シャルルは息を吸い込んで剣を地から抜き下から勢い振り上げた。


 風圧と共に抜き去る衝撃振動に、黒氷柱がシャルルを貫く前にガランガランと地に落ち、地面で消える。


「どうして…」


「てめえ…くそがあっ…!」


 理解できないとシャールは座り込み、チロルハートが叫んだ。


「俺は大地に選ばれた銀。銀の聖騎士と呼ばれる騎士はリムを守ることを地に誓い、リムのために地と契約をする」


 銀の聖騎士はリムにおのれの命を捧げ、リムを守る地を作る。


 シャールが全身の痛みに倒れ込み、チロルハートが絶叫した。


「くそ…ガキが!」


 シャルルは息を吐いて走り込むと、地下大聖堂の前に走り込む。


 血が沸騰しそうだった。


 これが…大地との契約…。


 銀の甲冑と剣の重みを感じながら転がるように走り、


「この…死ねっ…」


と賊の怒声を受けつつ、地下大聖堂の扉の前で男に目前斬りつけられる。


「ちっ…」


 シャルルは肩から噴き出す血を払うように、頭を揺らした。


 そのまま腰を低く落とし、真横に剣を振るい風圧で男をぶっ飛ばす。


 地下大聖堂を守らなくては…そればかりが頭に渦巻き、シャルルは大地に銀の剣を刺した。


「聖騎士様っ…力を使いすぎると…」


 老騎士がシャルルを庇うように立ちはだかるが、その騎士すら背後からの攻撃に、騎士団コートが切り裂かれ血まみれだ。


「構わんっ!この身が壊れようとも!」


 既に動けるものは三人…全てが斬られて伏している。


 黒の騎士団は黒の楽園の守護者であるが、戦いなどしたことのない各領地からの若い次男三男の集まりだ。


 なぜならば黒のリムは本来騎士に付き騎士を守る存在で、このようにリム狩りにあうことも、警らする必要もなかった緩さが、今の現状を引き起こしている。


 騎士がリムに攻撃をされている…そんなことは想定されていない。


 リムへの防御など誰も知らないのだ。


 楽園騎士団大隊長のラビットがそれを危惧し、黒の楽園騎士団へ赴いては、戦い方を示唆してくれた。


 訓練を受け入れた者は限りなく少なかったが、シャルルは志同じなる騎士と受け入れたものの、自分の欠点を知っている。


「まともに動けるのは、ガキ一人だ、捻り潰せ!」


 足を引きながらチロルハートが叫んだ瞬間、シャルルは正面から斬りかかる男の足を目掛けて、銀の剣を引き起こした。

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