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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第四章 楽園へようこそ
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楽園へようこそ10

改稿済

「てめえ…!リムの分際でっヒト様に…」


 俺は明らかに八つ当たりで実力の少々を行使したことですっきりし、男に向き直った。


「あ…ああそうだな…俺は………リムだな」


 見た目はそうだもんな。


 男が俺の顔を睨むようにしている。


 この箱庭に入るには、そこそこの砂金が必要だと聞いている…つまり金…マネーだ。


 金を払って箱庭に入りリムを得ることが出来ればまだしも、手に入らないとなると領地にも帰りにくかろう。


 俺はふ…と悲しそうに微笑み、


「大変だな。リムを得るために砂金をかき集めたんだろうけど。豊かな領地のためにもう少し待ってみたらどうだ?まだ小さいリムが、お前さんに反応するかもしれん。今は待つ時だ」


と、座り込みながら男に告げた。


「もう、お前でいい」


 あきらめ切れない男が涙を流しながら叫ぶのを見て、


「へ?」


と俺は男が俺を見上げているのを見る。


「お前は主持ちか?」


 足下から頭の先まで品定めするように見てくる目に怖気おぞけが走り、俺は慌てた。


「いるいるいる。ちゃんっといる」


「どこにいる。野良でなければ、マスターが近くにいるはずだ」


 死体の重吾を動かせるか…?


 えーと…人間は電気信号で動いているはずだから…電気…体内電気…生体電気をファナの中で起こし…風に乗せて…表面に走らせる。


 俺は左の後ろ手でプラズマを起こし、重吾へと風に流して皮膜表面をコーティングした。


 よし…歩け…。


「えええーと、今来るって」


 死体の重吾は目を閉じたままゆらりゆらりとぎこちない足取りで歩き出し、その後ろをティータが慌てて着いてくる。


 っと…触れたら感電…ぎりぎりまでコントロールする。


「なんだあ…こいつは。辺境人じゃないか。おい、目をさませ!」


 男の目の前には上背のある黒髪の男が、異国の服の上に騎士団のコートを羽織った出で立ちで現れ、まあ、仁王立ちをしているって寸法で、呼吸もしてなきゃ目も開けやしない。


 正直歩かせるのだって結構細かい配慮が必要で、俺はいつもの風担架で運べばよかった疲労感で、反省含めいろいろと反省と後悔満載だ。


 この上…体内にまで電気信号を送るなんて無理な話だ。


 俺はウソをぶっこくことに決めた。


 ええと…剛志の奥さんの同人誌の何かに…ああ、そうそう…ナルコレプシーの青年と警官の話があって…そうそうやつの嫁さんはボーイズラブが好きで、「青年と警官は成人しているから、メンズラブじゃないのか」と言ったら、もー、だめですね、重吾さんは。ニュアンスなんですよ」と、嫌がらせで大量の同人誌を置いていったっけ…を今思い出している場合じぁあない。


「主は……『眠りの重吾』と言う。主がまなこを開いたとき、世界が大きく動くんだ」


 んなわきゃねーだろうーが…だが、アーバーグランドの住人は…信じた。


「じゃあ、目を覚ます前に殺してやる」


 おいおいっ…俺の危機……死体の重吾っ!


「マスター!」


 俺の左手のコントロールが一瞬遅れて死体の重吾が木にもたれかかるように崩れる。


 男は周りのリムの悲鳴を自分の応援の歓声にでも感じているのか、舌なめずりをしながら重吾に剣を振りかざし、俺は走り込むとポケットの中から小さな鉄のかたまりになってるそいつを握ると、ポケットの中からトリガーらしい物を引く。


 キーーーンッと高い金属音を響かせ男の剣をはね飛ばし男は尻餅をつき、俺じゃなく重吾を驚愕なまなざしで見ていた。


 重吾の手は偶然にも人差し指を男の方を向けている仕草は、まるで重吾が見えない何かで男の剣を吹き飛ばしたと思ったんだろう。


「ファナ様、影縛りなど、もっと力を使えばいいのよ」


 う…そうでした。


 どうにも俺はまたリムである自覚が足りないらしい。


「そこの男。マスターはすでに私とファナ様の二人のリムを持つ、強いお方。あなたとは格が違うわ。出直しなさい」


 ティータの不遜な物言いに、男は動揺している騎士団に再び取り押さえられた。


「あー…ポンチョに穴開いた…」


「もう、ファナ様、無茶をして。リムコートも草の汁がついたわ」


「気にすんなって」


「気にするわ。そのお身体はファナ様のものよ。お馬鹿さん」


「ぐっ…悪い…」

 

 辺境警察出身者は伊達ではないことを、辺境自衛隊出身者のエバグリーンにアピールしてしまう羽目になり、それなりに心配そうにしているティータに頭を下げる。


「…つくづく見た目を裏切るね、君は。警察事務官かと思っていたら、実働系でしかも空手をやっていたわけか。しかも…飛び道具まで扱えるんだな」


 エバグリーンが俺に話し掛け、


「二十日花がしぼみ始めた。お披露目は終わりだ。みんな丁重にお送りしなさい」


と、収拾を付けるように世話役たちに言い放ち、まだ悪態をつく男を連れて行くように指示した。


「ははは…嗜む程度ですが…」


 苦笑して死体の重吾の横に行った俺の回りに、主のいないリムが集まってきて、じっと見下ろしてくる。


「ん、なんだあ?」


 違う…死体の重吾をではない、ファナを、だ。


「モルト」


「モルト」


 小さな少女から成熟した者まで、口々に『モルト』と呟き、一斉にファナの前にひざまづく。


「え…?」


「これが、現実。リムの至高モルト」


 ファナは特別視も女王も嫌だった…確かにこの景観は俺も嫌だな…みんながひれ伏している様は…。


「お互いに慣れるしかないなあ…。なあ、ファナちゃんや」


 俺の中のどこかにいるだろうファナの魂に囁きかけると、


「モルトのマスターも、また、至高」


「はひ?」


 リムの瞳が死体の重吾にも向けられていて、リムがにじりよってくる気配に、俺は嫌な汗をかく。


「ファナ君、早くここから出た方がいい。男の夢ハーレムを実現させたければだが、重吾君は現在『死体』なのだろう?」


 自由を謳歌するリムが重吾に愛してほしいと求める可能性を示唆しており、死体にとってはうれしくもありがたくもない半身はかなりの重圧だ。


「エバグリーン…そうするよ…」


「君が自分の身体に戻れる…その可能性は…もしかすると日下博士の愛弟子でもあるクリムト殿か、ジュリアス殿が何かしらの方法を知っているかもしれないよ。彼らは自分の子どもたちであるリムを使った実験をしているからね…あら、山本さん」


 リムを優しく退かすようにグランツの中心人物である山本老人が、深いシワを称えた口許を歪めた。


「ファナ君…重吾君、ことが終息したら、是非わしらの願いを叶えてくれないか」


「はあ…」


「いきたまえよ、辺境のリムよ」


 まるで、『行きたまえ』とも『生きたまえ』とも聞こえるそれに後押しされ、俺は山本老人に頭を下げ、北へと向かった。

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