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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第四章 楽園へようこそ
43/226

楽園へようこそ9

改稿済

「えらくリムに馴染んでいるじゃないか、ファナ君…いや、ファナちゃんかな?」


「ファナ様はファナ様だわ」


 つんとしてティータが俺を引っ張るから参ってしまい、


「エバグリーン、誤解を招くからやめてくれ。中身は俺だっつーの」


と俺は懇願する。


「ははは…。さて、ファナ君、黒の楽園への警告文書を届けてくれないか」


 グランディアの巨大蚕の吐いた糸であろう絹的な繊維の白衣を身に付けたエバグリーンが、俺に巻物を渡してくる。


「日本語でのやり取りだ。万が一にも誰かが読むこともないが、東のガーランド王国には気を付けろ」


 エバグリーンの顔が、厳しいものになった。


 まとめ髪を彼女が見る先は、『箱庭』と呼ばれる白亜の建物で囲まれた、お披露目の間だ。


 俺が遠目で見ている風景…裸体の妖精たちはヒトの男女入り交じる中で、語らいをし笑い合いながら主を探している。


 ここまで明け透けだと、もはや恥じている俺の方が恥ずかしいわ…そんな気がしてきた。


「東の領主は領土を拡大している…と内偵している私の隊が伝えてきた。昨日君に話した『自衛隊の歌姫』だよ」


 リムが輝き歓声が上がり、主となる男が胸元で光るリムの花を指で触れ、世話係が渡してきたポンチョをそっと被せていた。


 そんな歓喜が柔らかな風と二十日花がそよぐ庭を包み込み、喜び次々に嫁取(めと)られる…そう言うのには語弊があるかもしれないが…リムの幸せそうな様子を見つめ、俺は心の奥底に眠る懸念を口にした。


「その歌姫から、中学生くらいの少年の話は聞いていないか?この世界では黒髪は目立つ。もしかすると、俺と一緒にアーバーグランドに来ているはずだ」


 エバグリーンが困った顔をして、首を横に振る。


「ファナ君、君が風穴からアーバーグランドに落ちた後にも、一度も黒髪の子どもの話は聞こえてこない。本来は北東のアギト川付近に落ちることが多いのだよ。君は異例なんだ」


 俺が危ぶんでいた現実を突き付けられ、歯を噛み締めた。


 救出したはずだった…出来なかったのならば…一緒にこの世界へ来たのかも思っていたが…。


 そうなると少年はあの崖から落ちたことになり、しかもあの高さから落下したのならば助かるかどうか…剛志が救出してくれれば一命だけは…。


「くそっ…た…」


 俺が口端を噛み締めるように、吐き捨てようとした瞬間、


「くそったれがあ!どうして俺が選ばれないっ!」


と、野太い声に先を越された。


「なんだあ…」


 騎士崩れのようにも見える農夫が、一人のリムの髪を掴んで引き倒していて、悲鳴が上がる。


「まずい…!」


 エバグリーンが呟き走り出し、楽園騎士団の騎士団が入ってくるよりも先に、俺は無意識的に動き出していた…警察官魂ってやつだ。


「ファナ様っ」


「ティータは、待機。呼ぶまで待て」


 このとき、俺は俺の身体がリムだってことをすっかり忘れていた。


  俺は体を低く走り込むと、リムの髪を掴んで引き摺る左手を、風をまとった空手の手刀で叩きつけた。


「ぐあっ…」


 呻いた体格の良い男の脛をブーツの踵で蹴って倒り、俺は仰向けに転がった男の首に小さな膝を掛け、気道を潰す。


「ファナ君っ!」


「騎士団は何をしている。リムの身柄を確保!」


 動けば気管が塞がるギリギリを膝で締め、リムを抱き上げたエバグリーンを見ると、息苦しさに暴れ出した男から退いて後ろ手に腕を締め上げた。


「畑を真剣に耕して出直してこいっ!このくそったれ!」


 …言えた…言い切れた…すっきりしたー。


 俺は取られた自分の台詞を回収し、すっきりと溜飲が下がり、男を楽園騎士団へ引き渡す。  

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