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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第四章 楽園へようこそ
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楽園へようこそ7

改稿済

 欠けない月が眩しい。


 ここが日本ではないと感じさせる光が、俺は嫌いじゃあない。


 そっと起き出すと寝息を立てるティータから抜け出て、あちこちに巻かれている虫絹を天女の羽衣みたいに肩に巻き、扉から外への廊下に出た。


「月が綺麗ですね…だな」


 エバグリーンがひとつ纏めの髪を背に落とし、ゆったりとした白いワンピースで現れ、


「夏目漱石の逸話か…やはり日本人だな、ファナの中身は。どうだい?」


と、麦酒の香りがする陶器のジョッキを、俺に掲げて来る。


「いやあ…子どもなんで」


とやんりと断ると、


「リムの成人年齢は五歳だよ。ファナは九歳でとっくに成人年齢を過ぎているが?」


と言われてしまった。


「成人年齢が五歳…!」


「力さえコントロール出来れば家畜として役に立つ」


「家畜…」


「…くらいにしか、リムのことなんて考えていないさ、こっちの住人はね」


 明らかに年上のエバグリーンに悪態も付けず、ジューゴは苦笑いをして、横で月を見上げる。


「なあ…君。ファナはどういう風に死んだ?」


 月を見上げながらエバグリーンがまるで呟くように俺に言葉を落としてくる。


「ファナは…首を斬られて…」


「そうか…不憫な子だったよ。我々辺境人に振り回されたあげく…」


 沈黙は黙祷のようで、エバグリーンは麦酒を飲んでいた。


 どうにも手持ちぶさたな俺がどうしようかと悩んでいると、


「さて、ファナ君、自衛隊の歌姫たちは知っているかい?」


とエバグリーンが俺に聞いてきた。


 エバグリーンはどうやらファナと俺とを男子語尾の『君』を付けることで、わけることにしたみたいだ。


 なるほど…辺境人ならではだな。


 知っているもなにも、俺が小学生になりたてで夏休みの頃、百里基地から飛び立った陸海空の歌姫の乗る輸送機が海上で落雷に遭遇、ばらばらに分解、救助されたパイロット以外、行方不明のミステリーだ。 

「まさか…その時の…でも…あれからずいぶんと時間が…」  


 エバグリーンが苦い顔をした。


「私たちの時間はゆっくり進む。まあ、それはおいおいに分かるだろう、多分君にも、だ。私は彼女たちの上官で、私たちはパラシュートで風穴からこの地に降り立ち、日下博士に保護された訳だ」


「はあ…」


 エバグリーンが杯に口をつけ、ほ…と息を吐く。


「先程早馬が来て、連絡が入った。東の領主であるガーランドが、王国を宣言したそうだ。ガーランド王国だ」


「はあ…」


 俺は当たり障りなく頷いた。


「わが歌姫隊によると、東の領主がリムをかき集めているとのことだ。リム狩りの首謀者はガーランド領主となる」


「え…」


「昔から風穴から落ちた辺境人を、手厚く迎える領地だったが、なにやら不穏な噂が流れていてね」


「何やってるんだ、楽園騎士団は。隊長はいないし…」


 俺がぶつくさ言っていると、エバグリーンが不思議そうに、


「いない?そんなはずは無かろう。ラビットは滅多なことではあそこは出ないよ」


と言い放ち、俺は驚いた。


 ラビットが…あの顔に傷がある料理師のおっさんが?


「まじか…」


 エバグリーンが不思議そうな顔をしたが、話しは元に戻り、


「辺境人が落ちてくる風穴のある源流は二股に別れていて、アギト川の本流とイア川の支流がある。支流が東の領地に流れ込んでいるんだ。君は本当に希有なパターンとなるわけだ」


 なるほど…つまり、もしかすると黒髪の少年が、東の領主の所にいるかも知れないのだ…むしろいる可能性が高い、と俺は直感した。


「ファナ君、君に仕事を依頼したい。黒の楽園は北にあり、東のガーランド王国に隣接している。危惧かも知れないが、リム狩り実態を伝えたいのだよ。出来れば数少ない黒のリムを全員こちらで受け入れたい」


 俺は言われるまでもないと頷き、ティータを預かって欲しいと頼むと、


「リムは連れていくこと、いいな」


そう言われ、ティータを連れていくことが決定してしまったのだ。


 俺は寝台に入り込み、諦めて大の字になる。


 自分も子どもながら、子ども体温に引き摺られて眠りに落ちた。 

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