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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第四章 楽園へようこそ
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楽園へようこそ5

改稿済

 与えられた小さな部屋にはそこそこ広い風呂があり、俺は石造りの浴槽に湯が張ってあったから、考え事のために湯船に沈む。


「はあああ……」


 美少女がおっさんくさく…感嘆の溜め息が出た。 


 やっぱ風呂はいいなあ…。


 日本でもついつい長風呂になり、のぼせて祖母を慌てさせたこともあるが、いまは父母よろしく、祖父母も亡くなりキラキラ星のひとつだ…ってこのままでは俺もだけど。


 とりあえず死体の重吾は放置しておいてもここならば大丈夫だろう算段で、俺は長風呂を決め込むことにした。


「アーバーグランド…か…」


 エバグリーンの説明だけでは全く分からないどころか、老人たちはなんだか意気消沈していて、なんか俺が申し訳なくなってくる。


「えーと…ファナはモ…なんだっけ?」


「お馬鹿さん、もう、忘れたの?」


「へ?あの…なにしてい…」


 開いた浴室の扉の前で、全裸のブルネットのリムが正座をし、両手をついて土下座…いや…平伏していた。


「あなたはモルト。火土風水のみならず光と闇のすべてを制し、時空を操るリム。そして私はファナ様に仕える楽園の語り部」


「え…?あの、君…さっきの…」


 ブルネットのリムはファナよりも背が小さいが綺麗な流線と少女の端境に差し掛かる胸の小さな膨らみがあり、ガリガリに痩せているファナの俺がブルネットのリムの胸を凝視しているのは…大変失礼だとは思うが…少しくやしい…いやいや、ちょい、まて、俺。



「私はファナ様に仕えていて、あなたではないんだから」


「っても…俺はファナなんだし…どうするよ」


 俺のことはどうやら気に入らないらしく、ブルネットのリムがつんと上を向き、


「仕方ないわ、ファナ様のお身体に仕えます」


と言い放ちながらざぶんと湯に浸かってくる。


「髪だってこんになくちゃくちゃ…」


「うん…まあ、俺には少々長すぎて…」


 ブルネットのリムにちょいちょいと手招きをされて洗い場で頭を洗われながら、


「あー…でも君が色々教えてくれると助かるよ。ええと…名前は?」


 フーパの屋敷から救助した際に聞いたような気がしないのだが…。


「名前はずっとないわ。だけど、私はモルトの語り部だから…モルトのマスターになら…名前をつける権利がある」


と、ざば…とファナの髪のシャボンを流した目で見つめている。


 名付けられることを期待している目だ。


 俺はファナと同化している手前、どうやらファナのマスターでもあり、またファナ自身でもある。


 しかしリムにとって名前は誓約の一部であり、名前を俺が与えることは、このブルネットのリムを死体の重吾が仮にも所有することを意味していて…死体の分際で二人もか、お前、いや、俺だが。


「名前をください」


 転勤したての俺に絡んでくれた友、そして仲間…一番楽しい警察署のある場所を思い出し、ランクルの製造会社…その名前をもじってみた。


「ティータ」


 そう呟くとブルネットのリムが、真っ赤になり横を向いた。


「変な名前……でも、もらうわ」


 口は悪いがどうやら嬉しいらしく、目元が真っ赤になって涙をこらえるように、首を横に振る。


「よろしくな、ティータ」


と、おでこを出した柔らかな巻き毛のティータの広い額をぴん…と人差し指でつつくと、


「分かったわ。中身はおじさん」


と湯槽にまたがり、とぽんと湯につかって、ちょこんと二人で横に座った。


「おじさんじゃねーもん、おにいさんだもん」


 ああ…のぼせそうだ。


 ティータの横で、ふーっ…となにやらわからないため息を吐く。


 分からないこと満載で、しかも俺自身が女の子ということに真面目にむきあわなけりゃなんないらしいことはだけは、すっごく理解した。 

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