楽園へようこそ4
改稿済
人里から離れた森林を抜け、断崖であり海原を背後にした南の果てに白の楽園があった。
俺はランクルと共にぐるりと白い壁で囲まれた楽園へ足を踏み入れ、その広さに圧倒される。
「少し待ってて」
白い門壁は楽園騎士団の楽園隊が守り、俺はブルネットのリムが口添えをしてくれ入ることが出来たのだが、門を入ると
「ファナ様がお戻りだ。グランツを呼べ」
と止められた。
ブルネットのリムに事の次第を説明してもらえばよかったと思うが、二人のリムは奥へ行ってしまい、門壁の中に俺とランクルと死体の重吾は取り残されのはめに…やれやれ。
左手…断崖側に大きな白亜の漆喰塗りの建物が幾棟もあり、それ以外には広々とした草原とほどよい果樹園が日陰を作っていて、その下でリムたちが戯れていた。
「女の子ばっかりだ…」
女のリムたちは全裸で駆け回り、女の子同士で抱き締め合い、時には口づけすらして自由を謳歌しているように見える。
目のやり場がないったらない…中身は男子だぞ、俺は。
「ファナ!」
俺はランクルから降りると、近寄ってきた白髪の老人の目を細める仕草に見上げた。
「これは…生きた鉄…扱えるのか、ファナ」
「…あんたも辺境人か。ちょっと聞きたいことがあるんだが…」
小さな上背の科学者のような白衣を羽織った老人は、ファナの身体の俺を見おろすと、ランクルを一瞥し、俺の言葉には耳を貸さず、
「ついてきなされ。鉄の四つ輪はそのままにしておきなさい」
と白亜の建物の中へ促してくる。
死体の俺をどうしようか悩んだあげく、俺は風の力で空気の板を作って俺の身体を担架よろしく浮かせてたままとりあえず歩いてついて行き、一番奥のドーム型の明るい部屋に入り唖然とした。
「えーーーっ」
どうにもあれだ。
祖父母とブラウン管テレビで見た、そのものが目前にいて、口から糸を吐いては、それを白い服の人々が回収をしている。
ザ・ピーナツの歌が、俺の頭の中を駆け巡っていた。
「まさかの…インファンドラント島のモスラ…」
目の前には巨大な蚕餓の白い幼虫っぽい芋虫が、部屋に生えている植物を食べ糸を吐いていて、リアルに円谷映画のワンシーンを切り取っている。
頭の中にはあの歌が流れて来るが、白亜のドームの端で円卓に座り優雅にお茶タイムの老人たちの一人が、ジューゴに手招きをし話し掛けてきた。
「ファナ、彼は誰だね。日下君はどうした?」
一番年上そうな老人に尋ねられ俺は困った顔をして、四人の白髪の老人の前に立ち尽くす。
「あ~…多分…死んだかと…」
俺の言葉にめいめい違う拭くに白衣をはおった老人たちは深いため息をつき、その最後を肯定しているようだった。
「そうか…日下君がのう…死に場所を見つけたか…」
俺を出迎えに来た髭をたくわえた老人が呟くと、
「山本さん」
と別の老人がいさめる。
どうにも話が見えずらちが明かないのだが、俺は
「で、みなさんがこちらで言うところの辺境人であり、日本人なのか?」
と聞いた。
「あたりまえだろう、ファナ…どうした」
「ファナは死んだ。ファナの中にいるのは、鈴木重吾、この生きた死体の俺だ」
なにせ俺にも理解不能なんだから、老人が訝しむのは当たり前で…ああもうどう話していいやら。
「ファナの魂ではなく、君の魂がファナの肉体に転移しているいうのか、君は」
妙齢の白衣を着た女性がきびきびとした仕草で死体の重吾とファナにお茶を出しながら、俺に尋ねてくる。
「ものすごい明察力ですが…貴女は?」
「エバグリーン・鈴木だ、ファナ君。失礼、隊の感覚がまだ抜けなくて。私は日本では自衛官だったんだ。アーバーグランドへようこそ」
「アーバーグランド…」
「日下博士が長年調査し考え出した地の名だよ。造園用語で休憩所と言うそうだ。ここの住人は気にもしないようだがな、地の名など」
エバグリーンがにっこりと笑い、俺の頭を優しく撫でてくる。
「こう見えて中身は二十五歳のお兄さんなんだが…」
「ああ…失礼。ファナは他のリムとは違い、私たちと暮らしていたからね、つい」
死体の重吾と俺に椅子に掛けるように手を伸ばし、俺は風を操りながら重吾を座らせると俺もちょこんと座る。
「改めて、紹介しよう。楽園管理者のグランツの山本司令…失礼、山本さん、佐藤さん、木村さん、加藤さんだ。それぞれ違う時代、違う立場だが等しく風穴を潜られアーバーグランドにいらっしゃる」
山本と名乗る出迎えてくれた老人がエバグリーンの言葉に頷き、
「世の中の不思議など常に理解が出来にくいものだな。そて、君の魂を宿したリムはただのリムではない。モルトという、リムを越えた宝なのだよ」
と皺だらけの顔を晴々しく歪めた。