異世界歓迎会
改稿済
「本当にこのリムには辺境人がいるっていうの?」
楽園騎士団ダグラム隊が、出発前に食事をとると言うことで、ご相伴に預かることにした俺だが、もう一つの女性騎士隊は別の任務とかで早々と居なくなる。
生きていたリムのケアだそうで、ただいま凄惨な事件のあったフーパの屋敷の食堂は四人プラス死体の貸し切り。
「で、なんで俺の死体まで…」
「だっておいとけないでしょー」
キャハハ…と笑いながら少し前に重吾の目玉を食べようとしていたラーンスが叫んだ。
前半戦でたらふく食べたのだからよしとしなくもないが、後半戦で何故か酒が一気に入り込むと、俺はその勢いに押されっぱなしだ。
「すまないね、あたしらもまだ隊を組んでからこんな風にみんなで飲み食いをしてなくてさ」
真っ赤な赤毛を頭の上でひとまとめにて垂らした大柄な美女が、俺の死体の横にやってくる。
「あたしはダグラム隊のマクファーレン、東の隊にいたんだよ。ラーンスはこないだ騎士団に採用されたばっかだし、これはいい機会をありがとうだね」
おかわりの麦酒を樽から陶器のジョッキに入れると、マクファーレンはごくごくと飲み干した。
「んーっ…一仕事の後はうまいわ」
ダグラムとラーンスは自分達自身で樽を抱えて、麦酒を煽っている。
リムが一人死んだあと…と言いたいところだったが、それは野暮な話しだろう。
「あんたが生きた鉄を扱えるなんてね。東ではたまに見かけたんだよ。もっぱら見せ物なんだけど」
飽きたのかラーンスがやって来て、死体に絡んで来た。
「ねえ、本当になにも食べたり飲んだりしないの?」
「だから死体なんだって…お前さあ、未成年だろ、酒を飲むな…うはっ…」
ジョッキの中身を重吾の顔面にぶちまいたラーンスが、綺麗な顔を酒でほんのりと頬を染めて微笑む。
「俺は大人だってばぁ。どう?美味しくなぁい?」
麦酒の匂りが部屋中に充満し、俺は顔をしかめて、死体の重吾の服を脱がせた。
「酒くっせえ…ラーンス、お前さあ…」
ケラケラ笑っているラーンスはしたたかに酔っているらしく、俺はコップの水を頭からざはっと被って酒の匂いを洗い流す。
「あら…いい身体」
「へぇ…細いのに筋肉あるぅ…」
「ほう…どれどれ…なかなか…」
店の真ん中で飲んでいたダクラムが酔っぱらいながらやって来て、上半身裸のジューゴを見つめる。
「はっ…ダクラム、あんた、目付き怪しい…」
勿論相当酔っぱらっていてろれつすら怪しいのだが、ダグラムがいきなり椅子に座っている死体の重吾の首を掴み、引き寄せたかと思うとぶちゅう…と唇と唇をくっつけてきたのだ。
「んぎゃああああ…」
俺は必死に引っぺがしたが、酔っぱらいの迫力は馬鹿力を伴い、無抵抗の重吾は子どもの身体の俺の目の前で酸欠になりそうなくらい接吻をされてから解き放たれた。
「うぇぇ…おまっ…俺のファーストキスを」
「ダクラムったら酔うとキス魔なのかしら?ほらほらお口直しよ、重吾」
マクファーレンもちゅう…とキスをして、続けとラーンスも憐れみを称えた顔でちゅちゅちゅとキスを始めた。
俺は…絶対に忘れないだろう。
俺自身が無抵抗をいいことに接吻され、それを俺自身が目撃してしまったことに。
死体の重吾の貞操は俺が守る、そう誓ったディープな異世界一日目の夜だった。