フーパの屋敷にて2
改稿済
踞る全裸の少女たちは泣き濡れた瞳を上げ、片膝を付いてなお体躯のあるダグラムを見上げる。
「うら若き白の妖精たちよ、ご無事でなにより」
「秘密の花園はすっかり踏み荒らされちまっ…いててて!」
「失礼なことを言ってないで、ラーンス!お前も礼を取れ」
耳を引っ張られたラーンスは、仕方なしに痩身を折り曲げ片膝を付くが、勝手に改造した騎士団のコートは腰の辺りでバッサリと切ってあり、どうにも礼を尽くす形にはならない。
「拷問も終わったし、まあ、いいですよーだ」
走り寄ったラーンスがダグラムにひそりと耳打ちをしてから礼を取るが、リムはラーンスの短剣にこびりついた血を見てびくりと肩を震わせた。
「申し訳ないが、このままフーパの領地に赴き、我々の仲間と合流してもらいたい」
少女たちが「ひっ」と息を飲み込む。
それはそうだろう。
人間扱いをされないリムの扱いなど家畜以下で、年端のいかない少女たちは客を取らされていただけましなのかもしれないが、中には主を何らかの形で失ったフリーのリムは、新しい剣の試し切りに斬って棄てられることもある。
マクファーレンもダグラムも巡回に付き合う間、凌辱され斬り捨てられたリムの死体を何度も見てきた。
力を持つがゆえ、世界から与えられた理不尽さ。
小さく細く儚げなリムの鎖骨の間には、重なる花びらのような紋章があり、ここに接吻をしリムの主になることが出来るのは、領地に愛されたものだけ。
マスターピースとしてリムを使い、約束された豊かさを、領地に還元していく。
まさに、世界の恵みでもあるのだ。
「大丈夫、あたしたちが貴女方を守ります」
小さなリムの一人が泣き腫らした目をラーンスに向けてきて、ラーンスは曖昧に笑いかけ、ダグラムに確実に言われる一言に向かい愛想笑いをする。
「男にしか興味を持たない、男好きですから」
二人の可愛らしい瞳に驚きが浮かび、表情が戻って来た。
「毎回…言わせないでよ」
ラーンスはがくりと首を項垂れ、ダグラムが立ち上がりリムを馬車に誘導する。
「レディたち、さあ、どうぞ」
ラーンスは馬車の後部座席の幌を開けると、リムをひょいと持ち上げシートに座らせる。
怯えるリムに、
「大丈夫だよ。白の楽園に返してあげるからね」
とラーンスが笑いかけると、マクファーレンがリムの横に座り、
「リムをたらしこむな。顔だけ色男」
と、肘鉄を食らわせてきた。
「大丈夫ですよぅ、姐さん。マスター持ちですからね、こちらの妖精さんたちは」
馬丁台ラーンスとダグラムが乗り込み、やや傾いたような気がする馬車の口紐を持ち、
「行くよ」
と、明るい声で走らせる。
「しかしさあ…マスターの命令で身売りなのかね」
フリーのリムだとばかり思っていたが、主持ちだったことに、マクファーレンは驚いてにちょこんと座るラーンスに呟く。
ラーンスは「あっははは」と大笑いすると、可愛い顔を歪め真顔になった。
「まっさか、フーパの息子の命令だよ。フーパを幽閉にして、契約だけさせる。フーパの命令だと言い放ち、リムをがっちがちに縛って小遣い稼ぎ。リムは毎日大地に恵みを与え、更に男たちの相手もさせられ、超かわいそーな状態。リムはか弱い存在なのさ」
「爪はがし何枚目の情報だ?」
ダグラムの不穏な発言にラーンスが「三枚目」と囁き、
「たった三枚でチビっておしまいだもん。超つまらない」
と、ポケットから小さな貝殻のような爪を窓ガラス越しにきらきらと光らせたと思ったら、口の中へぱくんと入れた。
「うん、まだ、肉が少しついてる。ちょい、うま」
「ラーンス、あんた、まだ生カニバ癖直ってないの?」
うしろからマクファーレンの呆れた声が降り注ぎ、
「大丈夫、姐さん。僕、近頃レアもいけますから」
と、ラーンスが飴を舐めるように頬を膨らませながら爪を舐めながら話すのを聞きながら、生もレアも一緒じゃんか…そう二人は思ったのだった。