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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第三章 重吾、刻をこえて
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重吾、刻をこえて4

改稿済

 今や鉄肉のかたまりであるランクルは、俺…重吾を飲み込んだまま宙に浮き気流に流されていた。


 意識だけ向けると下は結構広い川だった。


 針葉樹が続く先には開けた平野が広がり、さらに町並みが続く。


 あちこちに点在するそれは外国の石造りの家であり、見慣れた日本の風景とは違う。


 そして白いポンチョの娘たちが立ち働く姿はおとぎばなしの『よい魔女』のようで…。


 歌いながら光を集め、輝きながら水を降らせ、踊りながら芽吹きを助ける。


 そんな大地から愛される存在…妖精に近きもの。


 しかし…意識をファナに向ければ凄惨な状態だった。


 狭い地下牢で糞尿にまみれるファナに水を浴びせ、わずかばかりの餌を転がしておく牢番。


 ファナは小さく丸くなっており、思い出したように泣いていた。


 ブルネットのリムが帰ってくると


「ファナ様、泣かないで」


と走り込み自らを省みず慰める。


 他の二人もまるでファナを守るかのように固まって暖を取っている。


 ファナ…泣くな…この子たち…この子たちを…助けたい。


 俺は動けないランクルの中で必死になった。


 他のリムには名前がない。

 

 確か…マスターが名付け親になるはずなんだが、フーパは髪の毛の色だけで判断し、名前なんかつけていない。


 だが胸元の刻印に触れてリムが輝けば、それは主として認めた証。


 三人はフーパを主として認めていると言うことになる。


 しかしファナだけが名前がある。


 ファナにはマスターであるヒトがいたというのか…その『お祖父様』とやらが、マスターなのか。


 わからない…。


 俺は鉄団子がゆっくりと俺の意識に反応してフーパの屋敷の方に移動しているのを感じた。




 その日もいつものように、ブルネットと短いブロンドの幼いリムが小屋にかり出され、大人のリムが全力で豊穣に務めていた。


「フーパ様、楽園騎士団が感づき始めました」


 日差しの中の柔らかな木陰の下で、フーパが自嘲する。


「そろそろ移動するか」


「はい。ここの稼ぎも結構たまりましたし」


「リムたちはどうします?」


 フーパがくくっ…と笑った。


「始末しろ…っとアンバーを畑から呼び戻して、お前ら遊んでやれ」


「いいんですか、フーパ様」


 男の一人がにやにやと笑う。


「俺の使い込んだやつだが、お前らにも味あわせてやろう。その後は刻んで捨てろ。メスガキは小屋で一稼ぎさせた後、連れて行く」


 フーパはふーむと息を吐き、


「南のクリムトを襲うか…あそこは豊かでいい」


と熟考するように顎をしゃくる。


「地下の凶眼のメスはどうします。クリムトに連れていきますか?」


 フーパは意に返さずといった風にあっさりと男に言い放つ。


「首を切れ」


「は?」


「お前が首を落とせ」


 男が怖じ気づいたように腰を引く。


「あんなの…手に掛けたら…俺が呪われちまう」


 フーパは周囲を見渡したが誰もが首を横に振った。

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