重吾、刻をこえて3
改稿済
ズキッ…ズキッ…ズキッ…と心臓の鼓動に呼応するように、頭が痛み目を覚ました。
あれ…?
鈴木重吾の中で映画のように世界を見ていた俺は、混乱して回りを見渡す。
石を組み上げた石造りの壁が目下に見え、俺は自分の意識の中で自分が動かないのに気づいた。
赤く生温かいぬくもりを持つ四角い固まりの中で、俺は指一本も動かせない。
下には川が流れ、杉のような木々が立ち並び西洋の姿を見せていた。
…ここは…いっ…たい…。
「どうして凶眼まで連れてきた!俺はリムだけでいいと話したはずだ」
でかい声が耳の中をつんざく。
意識がそちらに向かう。
見えた…フーパの屋敷で起こっていたことが。
これも…過去だ…。
残酷な…過去だった。
「しかしねえ、フーパ様。あんたは四匹のリムがいると言った。ちょうどこれを合わせれば四匹だ。」
そう答えているのは、リム狩りの一党だろう。
「このメスの目を見ろ。不吉なことが起こる。そもそも壊死してような黒目を持っていることは、主を不幸にする。三匹ぶんしか払えん」
フーパがファナの髪をひっぱり引きずって、リム狩りに投げよこした。
「三匹半でどうだ。凶眼が不幸の固まりなら、気に入らない奴のところへ送ってやるのがいい。ほら、南のクリムトの領主はどうだ?」
ファナが傷だらけの痩せた小さな裸体を丸めており、俺はファナに手をさしのべたかった。
俺は…人身売買の現場で俺は何もできないのか。
がりがりに痩せて子どもはしゃくり上げながら、
「おじいさま…おじいさま…」
と呟いている。
その声はか細く小さく…俺の張り上げた声とは大違いだ。
本当のファナはこんなに小さく可憐な声を出していたんだな。
「わかった、わかった。凶状ももらっておく。三匹半ぶんだ」
フーパが金を投げてよこし、ファナは地下牢に押し込められ、小さなリム二人は客を取るようにフーパが申しつける。
「村の外れの小屋で客を取らせろ。子どものリムでもメスの仕事はできるだろう。この凶状の金額分は稼いでもらう。大人のリムは畑に出せ。仮でもマスターだ。俺に従え」
胸のリムに触れるとリムが薄色に輝き、リムたちはフーパの言いなりになって歩いて行った。
「休ませるなよ。替えはたくさんいる。また捕まえてもらうさ」
二人の幼いリムは男に連れられ村はずれの小屋にとぼとぼと歩いて行き、大人のリムは水を呼び畑の実りを助ける。
ただひたすらに…。
わずかな餌と寸暇の眠りだけで使役される…ときにはマスターの欲望のはけ口になる存在。
ヒトに使役されるのがリム。
しかし…ヒトと同じ形状を…しかも美しい姿の彼女たちの運命が残酷すぎて…俺は…眼を閉じた。