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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第三章 重吾、刻をこえて
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重吾、刻をこえて1

改稿済

「重吾、そのランドクルーザーは、警察署車両なんだぜ。なんでねちねち整備するかな~、お前」


 俺は我に返る。


 辺りを見渡し…見覚えがあるのに、理解が出来ずにいた。


「重吾さん、また、そのランドクルーザー洗ってたんですか?いいですか、そーゆーのは入署一年目の新米の仕事ですからね!仕事を取らないように」


「わーってるって。でもな、ランドクルーザーなんて庶民じゃなかなか…」


 白黒ツートンカラーのランドクルーザーを、柔らかな革で拭いている。


「重吾、書類が間違ってるぞ。お前は粗忽なんだよ、いいか…」


 なにやらがみがみと言い始める同じ服の男に言われ、目の奥に刺し込むように光が凝縮し、回りをぐるりと見ると、ふ……と俺は理解した。


 これは…俺だ…俺はここを知っている。


 …鈴木重吾…その氏名は漢字で四文字。


 『鈴木』が多いこの部署に転属され、名前で呼ばれる違和感に苦笑した日々。


 俺はどうやら鈴木重吾の体に意識が入っているのだが、自分ではどうにも出来ない事態に追いやられていることを知った。


なんっていったって…ここは…過去で…日本で…俺の知っている…世界だった。






 

 新しい高速道路のジャンクションに近い警察署に、機動力としてランドクルーザーが導入され、車好きの重吾は毎日手入れをしている。


「おい、重吾、手合わせをしろ」


 熊のように大柄な同僚の鈴木剛志が、顎をしゃくりながら重吾を呼び寄せ、警棒トンファーを渡してきた。


「またかよ」


 訓練用の道場部屋に無理矢理連れて行かれ、重吾はトンファーを左手につけ、型を取る。


「空手をやっとるやつは、そうおらんでな。何でかみんな剣道か柔道、近頃は合気道」


 空手が得意の剛志の蹴りをトンファーで止め流し、トンファーの先で剛志の足を掬い上げた。


「ふっ…」


 剛志の突きが宙を舞い、しかし重吾が低い姿勢からトンファーの先で剛志の胸を突く。


「はい、おしまい」


 重吾が笑った。


「また一発かよ…やられた」


 鈴木重吾は三歳から空手道を学び、勉強は得意だったが、両親の死後育ててくれた祖父母には大学進学を言い出せず、高校卒業後警察官になって七年…『記憶』ではなく『記録』、そうメモリーではなく、レコードのように、俺の意識に入ってくる。


 感情の伴わない記憶だけが脳内を掻き回し、俺は重吾の意識の中で、まるで映画のスクリーンを見るようにして意識の中にいた。


「まだ手合わせをすっか?」


「手合わせってのは、口実だしよ。なあ、昨晩、さつきちゃんと飲みに行っただろ?どこまで行った?」


 重吾がうーむと首をひねりながら、


「さつきちゃん?ああ、二人で飯食って、駅まで送っておしまい」


と言うと、剛志が頭を抱えて絶叫する。


「馬鹿か?馬鹿だろ、お前は!あんだけ重吾に好き好き好きよオーラだしまくっとるのに、飯だけかよ?コクるとか、お付き合いしようとか、ないのか、え?」


 重吾がこわい癖毛を、仕方なさそうにばりばりと掻く。


「まあ、いい子だなーとか思うけど、さつきちゃんのおっぱい揉んでる自分が想像できんし。俺はまだ一人でいいかなあ…なんてさ」


「ったく、ドーテイが。剥けてへんのか?」


「うるへえ!剥けてぴかぴかよ!男の子の心を大事にして何が悪い!俺は一目惚れ主義なの」


「運命の女かよ、お前意外と乙女だな」


 剛志が煙草を出して、トントンと寄せてから火を付けた。


「なあ、冗談なし妻帯せんと、出世遅れるぜ?コームインは」


「迷信だろ、んなもん」


 煙草を吸う剛志の横で、座り込んで馬鹿話をしていた重吾が、左手の握りこぶしを剛志に突き出すと、剛志が同じく差し出した左手の握りこぶしをこつんと合わせる。


「出世はともかくさ、結婚おめでとうな、剛志。嫁さん大切にしろよ。子ども出来たら、煙草やめろ」


「結婚式と同時にやめたるし。重吾、結婚式祝儀奮発しやがれよな」


 笑いながらランクルの元に戻ろうとする重吾と剛志に、緊急連絡が入った。

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