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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第二十章 クサカノート
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クサカノート6

「ミク君を追ってた」


 横でむくりと空が起き上がり、


「お水飲みたい」


と言って俺に手を差し伸ばして来た。


「あ、ほいよ、水」


 ティータは忙しいし、甲斐甲斐しくも俺が杯を渡し、それを座り込んだ空に手渡す。


 ランクルの中はスモークガラスにも関わらず俺たちは、頭まですっぽりとフードを被っていた。


「空さん、ミクって…誰だ?」


 俺は空が水を飲んだのを見てから話しを切り出す。


「多分、辺境人。ジョバンニが言うには、ガーランド王国の地下牢から売られた奴隷」


 俺は慌てて立ち上がり、


「ぐあっ…どういう…?」


ランクルの屋根に頭をぶつけたが、空はそのままつぶやき続けた。


「大丈夫。すぐに殺すつもりなら、その場で殺されている。でも、どこかの誰かのとこに連れて行くとこだったから、多分目的を果たすまでは死なない」


 多少噛み合ってない会話ではあるが、俺はファナでありながらおっさんのような深いため息をついた。


「あの子だったら…いいんだが…俺が助け損ねたあの子なら」


 バイクで高速道路を逆走した子を助け損ねて風穴に落ちたあの子は…こちらに来ていたのか…ならばなぜ分からなかった?


「噂なんだけどね、辺境の楽器を鳴らし、ドラグーンの長に気に入られた少年楽師なんだって〜」


 楽師か…俺が革表紙ノートをペラペラとめくっているのに海が気づいた。


「あ、クサカノート…」


「海さん、知っているのか?」


「ええ…私たちはみんな日下博士に助けられ、少しの間一緒にいたの。アーバー グランドの言葉を教えてもらって〜、ファナちゃんが赤ちゃんの頃までは一緒に暮らして…」


「え、そうなのか?」


 多分、俺は相当驚いた表情したはずだ。


「うん。生まれた時に立ち会ったの、私だもん。根っからの科学者なのよね、ほんっとうに馬鹿な人。無茶ばっかりして、挙句、おじいちゃんになって帰って来て…。私がどんな思いで待っていたかなんて考えてもくれないんだもん」


 思い出して涙が出て来る海は、空に背後から抱きしめられ、その手を握り締めていて…。


「あー…話が見えないんだが…」


「…でしょうね」


 意識を失っていた陸が跳ねた赤い髪を掻き上げ瞳を開き、だが未だ起き上がれないようだ。


「陸さん、大丈夫か?すまない、手加減できなくて」


 俺の言葉に、陸が薄く笑う。


「いえ、光栄です。手加減していたら、あの時の私はファナ君を殺していました」


「は?」


「あなたの体術は一撃で相手を止める技であり、人を断つための技ではありませんね。人を殺したことのない綺麗な人ですね、私たちとは違う…」


「へ?」


 見た目がファナだけに、その驚いた表情に笑ってしまったといった風の陸は


「デルタフォースは全員人殺しです。軽蔑しますか?」


と俺にさらりと告げた。


 海も空も神妙な顔をしていて、俺が俯いてがりがりと頭を掻いて、ティータを抱き寄せる。


「ファナ様?もう、邪魔だわ!」


 ティータが俺に手を引っ張られて、不満そうだが嬉しそうにしている。


 ファナの姿の俺がにかっ…と男臭く笑って、


「この子が怖がっていない。それが答えだ。子どもってのは、危険に敏感だ」


と言い放つ。


「あなた方二人が怖いものなんてないのでは」


と、陸が苦笑しながら話して来たが、俺はいたって真面目で、陸が、何故だか涙を流すし、


「陸っくん…いきなりカミングアウトなんて…卑怯よ」


海も空も泣いていて、陸は泣きながら俺に礼のための頭を傾けた。


「ファナ様、場所、特定した」


「ファナくん、ランクルを移動して下さい。私は大丈夫です。ガールーダの毒には耐性を持っています」


「しかし…」


「辺境人は首でも落とされない限り、傷は治癒します。ミク君を保護することが最優先です」


 ファナが運転席に戻り、ランクルが唸りを上げて振動し始めた。


 森は暗くなるが、ランクルは気にしていないのかライトもつけずに走り出す。

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