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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第二十章 クサカノート
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クサカノート4

 目の前に広がるのは、ティータやファナくらいの大きさのうさぎが二足歩行している姿なのだ。


 食用ジャンボウサギが青いジャケットを着て、とことこ歩きながら子どもみたいな甲高い声で喋っている。


「ピーター…ラビット…」


 運転席から隅からこそこそ身を乗り出した外見だけハイムの重吾の横で俺は、口をぽかんと開けてしまった。


「あら、ファナ様の中のマスターってば、モフルー知っているの?」


 なんてティータの質問にも、俺は心あらず。


「歩いてんのは、物語だけだ。ピーターラビット…他にも二足歩行の動物いるのか?」


 風穴とは別の辺境の門…おいおいマジかよ…どう見てもうさぎ的な奴が服を着て、リアルピーターラビットの絵本だが、それがもし辺境のとある女流児童文学作家の目にとまったとしたら…。


 もはや、人の想像力としていたものはなんなのか…。


 大ショックだ。


 こうなってくると、辺境特撮顔負けの何かが出て来ても驚かん!


 よくわからないが、俺は心に決める。


「ファナ様?」


 鏡に映るファナだって、辺境ならば神様だ。


 今は白眼の黒をクリムトの精密な光で作った光コンタクトのおかげで見えやしないが、白い部分が黒いなど、不吉に見えて異質すぎるらしい。


 なるほど、凶眼ね。


 我々はぱっと見、西の凡庸な住人と、二人の白のリムだ。


 動く鉄に乗ってはいますが…なんて思っていると、もうじき港に着くそこで、聞き慣れた金属音がして、甲高い女の声が響いく。


「待ちなさいっ…このっ」


 馬車が二台通れる土道の左右にテント張りのバザールが並び、動物型の二足歩行人種、モフル族とヒト族の混じり合いの中で、港の船着場で土煙が上がった。


「海さんの声。ティータ、尻を飛ばせ」


「ん!一匹、行って!」


 尻が黒い羽を広げてランクルの窓から飛び出し、いち早く一眼から見ている景色と音声をノーパソに送ってくる。


 しかもノーパソは分析をし、顔を覚えた…カメラ認識をしていた…者の名前を俺に教えたのだ。


『マスター、デルタフォースだ。海が戦っている』


 確かに画像に映る見事な巨乳と青い巻き毛は海で、海はクラシカルなドレスの女を取り戻そうと必死になっていた。


 騎士とやりあっているらしく、ここでガーランド王国とトラブルを起こしたくはないが、陸はひょろ高い男とやり合い、既に空は倒れている。


 これはヤバいのではないか!


「ランクル走れ!」


 ランクルのアクセルを踏むと、土埃の中に飛び込んでいった。


 




 行動は亀のランクルが桟橋に着いた時。


 海は内腿に縛り付け隠していた中剣をスカートをたくし上げ手にした。


 まるで内股に手をやって悶えているように見えるのか、ジョバンニが真っ赤になり横を向いてしまった。


りっくん、よろしく」


「わかりました、海さん」


 陸に申し送りをしていた通り、陸が上背のある気味の悪い男を確保し、海がミクを取り戻すと、空がサポートをする。


 そうなるはずだった。


「お姉さん、殺気立ってるねえ」


 海亀マルクルが桟橋につくかつかないかで、ぬうっ…と男が立ち上がり舌なめずりをする。


「ちっ…」


 先を越されたと思った海が、自分の作戦が読まれていたことを理解した時には遅かった。


「きゃ…ぁ」


 くうが痩せた背の高い男に投げ飛ばされ、港の地に着いた瞬間みぞおちに拳を入れられると転がされる。


「あ、ガゼル様来てるわ。なー、ヨーグル。なら、その子渡して。僕は砂漠に戻りたいんだよ」


 港には騎士と馬がいて、ミクを掴んで馬に乗せる。


「だめ!陸っくん!」


「はい!」


 ひょうひょうとしているが、この男も部下も強い。


 陸は両短刀を抜くと固太りに襲いかかるが、固太りすら剣技があるのだ。


「くっ…狂剣士ファイター陸、敵を殲滅しなさい」


 海の言葉に陸のスイッチが入り、十騎の騎士団に向かい、目を見据えて走り込んでいく。


「ミクくんっ!」


 海はなんとかミクを捕まえようとしたが、固太りと中肉中背から渡されたミクは馬に乗せられ、青いドレスの裾を千切るだけで連れて行かれてしまった。


 ミクを乗せた一騎とサポートの一騎が…白い髪の壮年の男が叫ぶ。


「小娘どもを足止めしろ!」


 小太りは走り去り、目の前に糸目が陸の手に鎖を巻きつけ、動きを止めた。


「鎖鎌…古臭いものを!」


「陸っくん囲まれるっ」


 糸目の男がさらに鎖を投げて拘束した陸は、八騎の騎士に槍で串刺しにされる瞬間、身体を低くして地面にキスをする。


「ふっ…」


 そのまま口に含んだ砂を糸目に吐きつけると、糸目の細い目に砂埃が入り、


「ぎゃ…っ!」


と小さな声を出して鎖が緩む。


「陸っくん!」


 空が痩せた背中を丸めて倒れている。


 その横に背の高い気持ち悪い男が歩み寄り、空に近づこうとしていて、どちらをどうしたらいいかわからない。


 元自衛隊員だった陸とは違い、海は同時立ち回りの際のエマージェンシーに優劣をつけられないのだ。


「空ちゃん!」


 空を助けに走った瞬間陸の呻き声がして、別の騎士が槍を陸に突き立てる。


「ぐっ…う…!」


 つまり圧倒的経験不足を、上背のある男に読まれたのだ。


「僕はモフルに戻るつもりだから、はーい、ジョバンニ航海長、亀出してよね」


 上背のある男は、空の気絶した身体をひょいと跨ぐと、にやにやしながら海に告げる。


「おっぱいのお姉さん、経験不足だったねえ。僕が一番先に痩せたガキを殺さなかったのに、再び殺すことないよね。つまり僕は人殺しは嫌いなんだよ。僕は人同士が殺し合うのを見るのが大好きなんだからね」


 負けたの…ね。


 海が泣きながら、膝をついた。

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