ミクの消失9
改稿済
起き抜けに女性の訪問は男性にとって嬉しいものらしいが、現在のファナの中の魂である俺にとって苦く言い訳がましいものとなる。
二十五歳の全裸の重吾が、十一歳と九歳の全裸美女児に挟まれて清く正しくだが、真っ白な寝台に転がっているからだ。
「本当に…ロリコンだったんだな、君は」
妙齢の女性にさっくりズバリと言われると、何だか妙に傷つくお年頃の俺が身を起こすと、早起きのティータも起きてしまい、突然の訪問に悲鳴を上げかけ、ファナである俺にしがみ付いて来た。
「エバグリーン、好きでファナでいるわけじゃないんだが…。何か用か?」
「済まない、この子の呼吸が浅くなりすぎて…モルト…ファナ君に見てもらいたいんだよ」
俺はエバグリーンが抱えている赤毛の幼児を寝台に置くように促した。
「君たちには日下さんからモスが飛んだら追いかけるように言われていないか?デルタフォースも追いかけて行った。だから正直焦っていてね…」
ずばり、いつ出立するかなあ…と俺は考えていただけに、エバグリーン元自衛官殿の先読みには頭が下がる。
「で、朝這いですか」
「すまんな。私も正直困っているのだよ」
赤毛のリムは青白い顔をしていてリムの刻印が弱々しく光っており、エバグリーンの心配もわかる。
この世界の医療は…まだまだ薬草レベルだ。
ファンタジー以下だろうが…と、俺は魔法も夢も希望もないこの世界をどうにかしたくなっていていたところだ。
「この子はガーランド王国のリムだ。騎士が死んでも契約が解除されないばかりか、昏睡が続いている。どうにかならないか?」
「ティータ…わかるか?」
ティータもガーランド王国の話しを知っているが、こんな寝起きの早朝に話せるほど気持ちの良い話ではないらしく、ティータは俺を見上げた。
「大丈夫。この子のためになるなら、話しちゃいなって」
「その子…たぶん…」
「もしかして…ガーランド王国の二人の王子のうちの一人の話…か?あれは噂ではないのか?」
言いよどむティータにエバグリーンは苦々しい顔をした。
「確かに…早朝から話したい気分にはならないことだ」
「おいおい、何の話だ」
俺は完全に置いてきぼりにされてふくれて見せ、エバグリーンが仕方ないとばかりに話し始める。
「ガーランド王国の双子王子の片割れだが、リムを支配できるという話だ。リムの体内に己のなんらかを定着させ、それによりリムを酩酊状態にさせるとともにマスターとなり、部下に貸し出すというやり口だ」
だからリム狩りが横行していたわけだ。
リムにマスターを選ばせるほど効率の悪い力の使い方はないし、一人がオールラウンドマスターとなり仮のマスターにレンタルすればリムの選り好みなんてタイムロスもなくリムの成人年齢五歳からこき使えるって寸法だ。
「効率重視のやり口だな。この子たちの人権なんて、まるっと無視じゃん」
俺が唸っていると、
「そもそも人権などリムにはないのだ。ファナよ」
と、澄んだ声が入ってきたのだが、その姿に俺は驚く。
「やはり変か?部屋着がないので、クリムトから借りたのだが」
クリムトの黒の透け感のある妖艶なベビードールを来たシャルルが入ってきて、
「ふむ…着方がまずかったか…」
と脱ぎ始めようとするのだから、
「おいおいおいおいおい、そのままのほうがいい、そのままでいい。ったくハイムの部屋着でも…」
と、俺は重吾用の洗濯後の金の縫い取りのある黒の長衣を投げてよこしシャルルが羽織ると、寝る前に二人の娘の髪を拭いていたタオエルを肩から自分の胸にかけた。
リムと暮らしていたからか、裸生活の長いシャルルは、どうも常識が欠如している。
「雷をまとい生まれてきた双子は、リムの生き死にから操作できる。テオが狙われているのはあいつが国王と言うだけではない。モルトである至高の存在のファナ同様、大地の剣と銀の鎧を降ろすことが出来る唯一のリムだからこそ狙われる。クルイークのリムにしたいんだろうが、そんなことは俺が許さない。この子はたぶん小さいから口移しで済むが、マスター持ちのリムは奴に犯され体内から狂わされる。絶対にいやだ。俺が耐えられないのだ」
ぎりりと歯をかみしめまくし立てるシャルルをどうにか思いとどまらせたいが、どちらにしても殺したいほど厄介な相手だのだろう。
ガーランドの双子王子という代物は…体内に雷を帯びている…雷…電気…。
「体内電気…なんでね」
「ファナ様、ハイムにした、痺れるやつはどうかしら」
「あ?痺れトンクルがとうしたって」
昔テレビで見た『痺れステッキ』ならぬ、ハイムに対して模擬戦で体内の微弱電流をトンクルで増幅してまるで電撃のように電気ショックを与えたのを思い出した。
「ファナ様はトンクルでこの子のリムに触れる。ファナ様を媒介にしてリムの体内を乱している気を動かす」
解除の内容はどうやら手帳の鍵を解除した物とおなじらしい。




