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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第二章 リムを狩る者たち
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リムを狩る者たち9

改稿済

 騎士団支部に泊まり朝食を取り、幌馬車のリムを気遣いながらも、かなり気を張っていたはずだった。


「もうじき着くからね」


 危機を感じてわりと早馬で来たのだが、ずっとちりちりした感覚に苛まれていたマクファーレンは、幌馬車の中にいるラーンスに目配せをした時だった。


 二頭の馬が突然悲鳴を上げて後ろ足で立ち上がり、道から外れかけ、それを手綱で制御しつつ、前方の黒のフードが両手を広げて、背後に作った光の矢を射ち放つ。


「目眩ましの次は、光矢っ……ラーンス、やめなさい!」


 馬を何とか留めた瞬間、幌車にいたラーンスが飛び出し、黒のリム目掛けて斬りかかった。


 リムに気をとられていたラーンスの横から騎士崩れが躍り出て、ラーンスの首を落とそうとするが、海老反り切っ先が頬を掠める。


「ちっ…フィリオ、閃光と礫で援護しろ!」


 前にはリムと騎士崩れの男が一人、マクファーレンもこれならばと、幌馬車から飛び降りた。






「これが…間違いだったんだよ…あたしのミスさ……」


 ラーンスが持ってきた水をコップから飲むことが出来ないマクファーレンに、俺は近くの麦の干した茎を渡し、飲み口を切る。


「なに…?」


「ストローの変わりだ。これで吸うと飲めるぜ」


 半信半疑といった顔で吸い口に唇をつけると、吸い込んで驚いてコップの中を飲み干し一息をついた。


「あたしのミスで…リムを持ってかれたんだ」


 再びマクファーレンが話し始める。


それは…凄惨な話しだった。






 長い剣を腰から抜き、だらりと手を降ろして間合いを詰める。


「姐さん、光の礫が…」


 礫を叩き落としながら、男と闘うラーンスの刃から鈍い音がして剣ごと力負けをし、ラーンスが蹴りあげられ微かな呻き声と共に、転がり土にまみれた。


「ラーンス!」


 ピピッ…と走る鋭いが致命傷ではない礫を全身に受けながら、マクファーレンは剣の切っ先を地につけた独特の間合いから男の懐に入ろうとする。


「えっ……っ!」


 背中に上から下に向かって熱い痛みが走り、そのまま体液がバッ…と噴き出すのを感じた。


 足元に流れ落ちるそれは、鮮血だ。


「なにが…」


 後ろを振り返ると、見たことのある男が刃の血払いをして立っており、その後ろには黒のリムが控えている。


「ガゼル…貴様…」


 マクファーレンは膝をつき、何とか倒れないように剣で自身を支えた。


「お前の悪いところは、部下を見捨てられないところだ、マクファーレン」


「隊長じみたこと…言うんじゃない…よ…」


 マクファーレンが前を見ると、幻影でガゼルを隠していたらしい黒のリムが、無言のまま礫を飛ばしていたリムを見つめていた。


 黒のリムが前後に二人…。


 ガゼルにそんな度量はないはずだ。


「くっ…」


 息を切らす前の黒のリムは腕まで澱みの色が出て、痛みに涙を浮かべている。


「東支部元隊長からのはなむけの言葉だ」


 ガゼルは隊長時代より長くなった銀の髪をひとまとめにして、相変わらず痩せているが以前よりも鋭い眼光でマクファーレンを見下ろし、そのままゆっくりとラーンスに向かって歩き出す。


「くっ……そ……ぉ」


 土埃にまみれたラーンスはガゼルが近づいてくるのに気づかず、起き上がり驚愕の表情を見せた。


「こちらに来ないか?ラーンスいや…マグル。まだ、お前は使えるだろう?俺が可愛がってやる」


 息を呑む音がした。


 ラーンスが震えている。


 ラーンスの側にいかないと…マクファーレンは手を伸ばした。


「……マスター…マスターアーク……」


 ラーンスが震えながら後ずさる。


 いけない…マクファーレンは叫んだ。


「楽園騎士団本部ダクラム隊ラーンス!……しっかり…しなさいっ!」


「う……ああああっ!」


 ラーンスが狂ったように折れた剣を振り回し、そればガゼルをかすりもせず、ガゼルが鼻で笑った。


「壊れたか…所詮リム返りか…。では、我々の目的を果たすか。白のリムはもらい受ける」


 黒のリムが幌馬車の中に入り込み、白のリムの目を塞ぎリムを眠りに誘う。


 幌馬車ごと奪われ、マクファーレンは失血で意識が遠退き、泣きながらすがり付くラーンスの頭をがしがしと撫でるのが精一杯だった。

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