ミクの消失7
この話はまさにノクターンの「くりいむてぃた」の後日談になります。クリムトとの口約束がここで活きるわけなんですが、R18以下の方、すみません。
「まあまあ、職人はあんなかんじです。まあ、怖がらないで下さいよ。ファナ君や、わたしらはとりあえず居場所さえ確保できればいいのです。ファナ君や、あとで少し時間をくれないかな?ちいと、エバグリーンが厄介事を抱えていていまして」
物静かな佐藤の礼節の正し話し方と雰囲気は少しだけ日下博士に似ていたのか、俺はこくんと頷き、声を荒げているクリムトの方へ向かった。
「もう!わたくしはグランディア王国の王騎士のリムなのです。領主ではありませんの!」
庭に座り込む百人近いクリムト領地民はジュリアス王国に温かく受け入れられたはずだったのだが、クリムトを求めてグランディア王国にやってきたようだ。
「王様、何か言って下さいまし!」
俺の横に来て、白のふりっふりドレスのクリムトが叫ぶ。
「グランディア王、わしらはなんもいらんのです。ただクリムト様の下で、生きたいだけなんです」
「わたしらはリムさんを必要としません。織り機や薬草知識はこの紙にしたためております。クリムト領地は本来肥沃な作地ではないのです」
必死だな…と俺は生き残った百人近くを見下ろし巡らせたのは、正直その養い方だ。
受け入れたが糊口を凌ぐ術無しならば、ジュリアス王国に返した方が良かろうが…と悩んでいると、一人のばあさんが俺の前に進み出る。
「土は穢れ消し、深く浄化をしますよ、モルト様」
白いベールを深く被った老婆が若い男に付き添われ、俺の前で笑いかけた。
「ばあさまは…」
「わたしはジュリアス王国のリムですよ。この子はわたしの孫です。昨年成人しておりまして、目下伴侶を探しております」
「やめてよ、おばあちゃん」
うふふと笑い合う老婆と信じられないことに孫を見下ろす形となっている俺は、老婆となったリムを目前にしていて、老婆がベールを外し俺の前に膝をついた。
「おお…モルトの証が眼にくっきりと…」
あ、やべえ、右目そのままだわ。
上品な白髪の老婆は痩せた胸にリムの華のような証があり、確かに老齢のリムらしい。
「どうして…リムの寿命…」
ティータも当然驚いていて、
「若いリムたち、よくお聞きくださいね。リムの寿命は人とそんなには変わりません」
と老婆は告げた。
ああ…と、俺は思い出す。
「リムだから寿命が短いんじゃない。リムが人として扱われていなかったから…だとか、クリムトがほざいてたなあ…じゃあ、力が強いから寿命が短いんじゃないわけだ…」
老婆がうなずくように深く頭を下げた。
「そうでございます。王よ。人のように生き、人として暮らし、リムの力を労働力の一部として使い、恋をして愛し合い…。リムはゆっくりと育つ『ヒト』なのです」
「いえ…人以上なのかもしれないのですわ」
クリムトが老婆を立たせ、椅子に座らせるとほほえんだ。
「リムが大変なのは生まれてすぐの、ヒトとして未熟な時だけ。泣いて暴走するリムの力を押さえ込むために、喜怒哀楽を極端に制御し、ヒトにかしずくためにわざと学ばせない。感覚過敏をいいことに服を着せないで自然と一体化という名目で放置し、未熟な性を力ずくで征服するのです。もし、わたくしたちが人と同等の感情を構築し、ヒト同様の知識の学びを持ち、なめらかな服を着衣して、この世界で自分たちのために力をふるったのならば…わたくしたちは人に取って代われるのではなくて?ねえ、王様」
「俺に振るなよ…クリムト」
いつもはハイムに話題を振るのだが、そんなリムよりも超自然の脳内の持ち主ハイムは、辺境老人と家を見回っている最中だ。
俺はクリムトのもっともな言葉にうなずいたが、違う意見を持っている。
「確かにリムは人以上の能力を持つだろうが、結局のところ、リムってのは…ヒトに優しいんだろうよ」
俺はクリムトにも軽くウインクをし、ティータもうつむいているようだが、目の端を何度も擦っているわけで、俺を含めおちびちゃんのために進言してくれた老婆に頭を下げた。
老婆リムはジュリアス王国で見た戦闘的なリムの力の使い方ではない、本来の力の使い方を伝授したかったようで、俺はクリムトに告げる。
「こないだの一件で、お前に政務一任しちやってるわけだし、好きにすりゃーいいじゃん」
と、丸投げた。
「本気でおっしゃっているのですか?」
「あ-、まじまじ。だって、お前できるじゃん。俺は班長は出来ても学級代表とか出来ないタイプなんだよね-。意外とアウトローっていうか?集団生活トップとかまとめるとかと苦手でさあ。国と急に増えちゃった国民のこと勝手に頼むわ」
クリムトが再び歓喜に沸き立つクリムト領地民…元だが…に囲まれ、珍しく動揺していてとても愉快だったが、それよりも、気がかりは二つ…目下のところであるが…。
その一つを取り除くために、厨房へ歩みを進めた。




