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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十九章 ミクの消失
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ミクの消失3

 力が…力が欲しかったんだ。


 リムであった時酷い目にはあったけど、自分の思う力が使え、それが自身の生きた証となっていた。


 リムとして役に立たなくなり、全身の細胞が黒く壊死していったあの寒い川沿いで、刺されたクサカを庇ってチロルハートに胸元を突かれた。


 その後に、多分…クルイークに刺されたのかもしれない…。


 ラーンスは浮かんでは沈む意識の中で、何かと対峙していた。


 クサカは黒の楽園で、テオやシャルルと共に暮らした時の『先生』だ。


 ラーンスは五歳で老騎士についたから、少しばかりの付き合いだったが、あの時も金髪の赤ん坊を抱えていたような気がする。


 もしそうなら、ファナのじいさんを間接的に殺したことになるけど…川に引き摺り込み死体を連れて逃げたのは、とっさの判断だが、よかっただろ?


 まさか…生き返るとは思わなかったし…リムん時って本当になーんも考えてなかったんだなあ。


 ラーンスは苦笑する。


 だってさ、ふわっとしてるんだ、世界が。


 喜怒哀楽なんて曖昧で、ただ仕える騎士の喜ぶ顔が見たくて、なんでも出来た。


 それがリム狩りで老騎士であるマイマスターアークがズタズタに殺された時に、意識のリセットがあるんだ。


 悲鳴は上げたかもしれないけど、ああ、マスターが死んだんだなくらいにしか思えてない希薄さ。


 で、クルイーロに侵されて、グランドマスターになりゃあ、クルイーロに褒めて欲しくて、仮のマスターに糞みたいに支えてさ、ガゼルはまあまあ仕える甲斐のあるおっさんだったけど可愛いがってはくれなかったし、リムを欲しがるチロルハートに玩具を与えるように俺をくれてやりやがった。


 え、少しばかりショックだったさ。


 チロルハートはリムを道具以下に扱うんだぜ?


 犯されたし小遣い稼ぎに売られたし、しかもストレス発散で刻まれたこともある。


 あの女をぶっ殺す為に、俺は騎士団に入ったんだよ。


 マクファーレン姐さんのしごきにも耐えて、あん時が楽しかったかもしれない。


 ああ、生きてるって思えたし、実際何度かリム狩りの奴らを殺したし。


 でも、南駐屯地でガゼルと会って、なんも出来ない自分に思い知らされたんだ。


 面と向かって立ってたつもりだったけど、マクファーレン姐さんが背後から斬られた時も何も出来ない。


 ガゼルに鼻であしらわれた時に、力が欲しくてたまらなくなったんだ。


 リムの力があって、剣技もあれば、奴らを倒せる…あの、糞ったれのガゼルを殺せるってさ。


 わかっちゃあいたんだ、自分の命の残りカスぐらい。


 でも、リムから返った人もどきをまるでただの子どもみたいに可愛いがってくれたマクファーレン姐さんの仇みたいなのを取りたくて、ガーランド城に潜り込んだら、ミクがいてさ。


 ぶっちゃけ、ガゼルを殺して、殺せなくても、死ぬつもりだったんだけど、ミクは辺境人だからか、ファナの中の重吾に似たところがあって、すぐに馴染んだんだ。


 なんていうのかな…肩肘を張らなくていいんだ。


 でも、ミクもファナの中の重吾と同じで、ここぞってとこで妙に力を発揮してくれて…まさか、リムの力が湧き出るなんてさ…。


 なんか…ぞくぞくした。


 力が溢れて…ぶっ放したら、全身の力が抜けちゃったけど…ミクを守れてよかったと思った。


 ああ、そうだよ、守りたい、守らなきゃって思ったんだ。


 だってさ、ミクは辺境人だし、闘いのない国から来たんだって言うんだぜ?


 俺が守らなきゃダメだって思ったんだ。


 今まで、そんな風に考えて力を使ったことなかったよ。


 ただマスターに褒められたい、愛されたい一心だったからさ…それがリムの心を満たして至福になる。




 ならば…力を他者に使ったあなたに、私の力を貸そうぞ…




「え…?」


 ラーンスは意識の底から聞こえて来た深い低い声に、目を開いた。


「ご…ぼっ…」


 砂漠から救われた時に浸けられていた水と同じで、呼吸も出来るその水から顔を出すと、


「起きたか、体調はどうだ?」


と、信じられないことにイーズが疲れた顔をして座っている。


「イーズ…あんた、なんでいんだよ…」


 信じられないことに怠さも何もなく、力が湧き上がって来て、ざぶ…と浴槽から立ち上がった。


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