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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十九章 ミクの消失
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ミクの消失2

「うっ…うふ…うふふ…ふ…いた…いたよ…!」


 笑いがこみ上げたロングビスは、既に動き出しているはずのヨーグルの出方を待つ。


 違和感のある不思議な音は、しばらく鳴っていたが、ふと消えた。


 ロングビスが知らない音は辺境人の音であり、そこに探している辺境人の子どもがいる証だ。


「ねえ、君たち、夜の出発は出来るかな?ほら、朝イチの高速亀で港から出たいんだよ。ほら、分かってくれないかなあ」


 野営の準備をしていたモフルーが小首を傾げる。


 出迎えるためにマンボが腰を低くして砂漠を走って行き、ロングビスはさらに砂金を追加した。


 ここで嫌だと言われる訳にはいかない。


 ロングビスの得意とする仕事は、籠絡であり吹聴であり讒言である。


 かつて村を滅ぼした『嘘つき少年』の本懐、育った果てがここに在った。


 まあ、『壊れた少女』の成れの果ては、中々素敵だよ…。


 思考を開始する前に、チロルハートを思う。


「仕方ないなあ…カート、すぐ走れる?」


 砂ロバが不満そうに嘶くが、ネズミが幌馬車を装着させ、砂金の袋をカートに見せた。


「港で豪華な朝ごはんしたら、ゆっくり昼寝をしようよ」


 多分…それに見合うだけの砂金は用意してある。


「もうじき待ち人が来るから」


 眼に浮かぶようで…それは間違いないだろう。


 ヨーグルにも予想を話しておいた。


 辺境の音でなんらかを諌めたらしい辺境人は脱力して周囲を見渡すが、興奮作用のあれ甘水を飲んでいる彼らの腹の中は燻っているから、辺境人の子どもに感謝などしない。


 しかも怒りを収めきれないドラグーンは、闘いを中止に追い込んだ辺境人を捨て置き、ヴェスパ長に詰め寄るはずだ。


 このままでいいのかと。


 ヴェスパの…ドラグーンの誇りを失ったのかと。


 孤独になった辺境人が立ち尽くしたところへ、ドラグーンに紛れ込んでいたヨーグルが背後から眠り薬を嗅がせて、担いで来る。


 途中、マンボと出会い、マンボが持ってきた、青髪のカツラと女物のドレスを着せ、服を散らばし…。


 固太りのマンボと、中肉中背のヨーグルが月明かりの影から現れ、


「ビスさん」


と、辺境人には見えない、気を失っている『女』をロングビスに渡してきた。


「あれまあ…綺麗なご面相だね、これは」


 辺境人はのっぺりとした顔で、黒い毛を持っていると聞いていたのに、眉毛も睫毛も茶銀灰色で、色も白く鼻梁もすっきりと通り、瞳を開いたらさぞかし華やいだ雰囲気を醸し出すだろう。


 おやおや、色子いろこを飼っていたのかな、ガゼル様の主人様は…確か…ループス様だったよねえ。


 詮索をしたいところだが、遊撃隊長に引き渡すのが仕事で、最大なる褒美はまだ先だ。


「さあ…本気をみせてよね」


 ロングビスの言葉で闘いが起こる。


 それを見にとんぼ返りだ。


「お客人、準備出来たよ」


 辺境人を抱き上げたまま、ロングビスは上背のある腰を曲げる。


 マンボとヨーグルも乗り込むと、月明かりの中港へ向かって走って行く砂ロバの揺れを勝利に感じ、ロングビスはほくそ笑んだ。


「髪色はウォールフに見えるけど…その女の子」


 確かに青い髪はウォールフが多いが、東にもいる。


「………ガーランド王国の姫さまだよ。奴隷商人に売られてね」


 うるさいネズミに嘘を漏らす羽目になり、正しい嘘はエッセンスを含むもので、ロングビスは軽くため息をつく。


 大丈夫…この無知なモフルーは気づいていないさ。


 ロングビスは糸目ににこりと笑い、


「これは内緒にしていてくれないかなあ。王国の姫が奴隷商人に売られたなんて噂がたつと、ガーランド王様の立つ瀬がないだろう?」


 と言うと、


 ナノが黒目がちな瞳を瞬かせて、


「そうだね」


 と頭までくしくしと掻いた。

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