フーパの屋敷にて1
改稿済
鋭く磨かれた鉄同士の交わる音がして、男が悲鳴もあげずに倒れた。
「リムの無事が優先だっ!」
男を蹴り退かした屈強の青黒の騎士が叫び、石造りの廃屋の唯一の木の扉を一気に斬りつける。
三人小隊の一番年若い小柄なラーンスが、ダグラムの脇の下から滑り込み薄暗い中に入ると、下半身剥き出しの男が数人飛び出してきた。
廃屋の外の男は見張りだったわけだが、ダグラム隊の敵ではない。
「お…俺たちは客で…ギャッ…」
明らかに使用後の濡れた股間を押さえた男達を、ダグラムが無言で斬り捨てる中、更に中へ入ろうとするダグラムを、真っ赤な髪の女が止めた。
手には何枚かタオエルを掛けていて、手慣れたものだったが、痛々しいほど真新しいおろしたての白を見るたびに、リムの扱われ方にマクファーレンが心を痛めているのが判る。
「ダグラム、どきな。リムを保護する。ラーンス、何人いるの?」
「二人。あ、姐さん、裏口から男が一人逃げた」
今まで保護のみで静観していたマクファーレンが、真っ赤な髪を翻すと一気に走り出した。
軽いステップを踏むと、一気に剣をぶん投げで背中からドン…と刃を貫かせ倒す。
「ぎゃああああっ…」
「死ないよ…ったく、こっちは保護優先だってーの。ラーンス、捉えたよ」
「さっすが姐さん!」
「やれやれ…」
と、ため息をついた。
「ごらあああっ…てめえ!」
肩に刃が入り肩を引きづりながら、まだ無傷な腕でぎらつく刃をマクファーレンに振りかざして降り下ろして来る。
「やる気なの?」
マクファーレンは軽く避けると、腰を落として男の腹に体当たりをし、男が地面に頭を打ち付け気を失ってくれた。
「姐さん、大丈夫~?」
少しばかり向こうの石造りの廃屋から、ラーンスの甲高い声がする。
「大丈夫だけど、あたしの仕事じゃあないよ、これは」
肩口までの見事なさらさら金髪を振り乱し、真っ白な上品な小顔にチャームポイントそばかすを散らしたラーンスが蹴っつまづきつつ走ってくるのを、剣を肩に担ぎながらふと、自分の足元にいる気絶した男を見下ろした。
盗賊にしては小綺麗な格好をしている男は、リムの売り買いをしている一味の一人だろう。
「生かして捕らえてくれて、助かったよ~。ダグラム隊長ってば、全部殺しちゃうから」
倒れている男を手早く縛り上げるラーンスは、マクファーレンににこにこ笑いかけた。
「そりゃ、ダグラムの恩情だろ。あんたにに捕まった日にゃ、気の毒だね」
ラーンスチャキ…と短剣を唇につけ、
「だめ?」
と、そばかすの人のよさそうな紫の瞳を細める。
「ほどほどにしな」
森の入り口の石造りの廃屋の前に戻ると、まだ子どもの域を出ないような少女が二人、マクファーレンのタオエルにくるまれて踞っていた。
まだあどけない表情で俯く二人は小刻みに震えていて、歩み寄るとダグラムにさらに身体を寄せ合い震える。
「ひどいよ。毎回毎回…。こんな小さな子を…」
「リムは人間扱いをされていないからな。我ら騎士団が守らないといかん」
男達をいとも無情に斬り捨てたダグラムが、二人のリムに片膝をついて、左胸に手を寄せ礼儀を取り、青黒の騎士団コートを地に付ける最高礼で、少女たちに声を掛けた。