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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十八章 混乱するオアシス
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混乱するオアシス9

 幌馬車は砂漠の中をまるで一本の道を知るかのように渡っていく。


 砂の海にある木の朽ちた十字架が気になって、ミクはヒゲをそよがせ鼻歌を歌いながら手綱を握るピコに尋ねた。


「砂の十字架だよ。二十年前くらいまではね、ドラグーン族とウォールフ族でオアシス争いが頻繁で闘いがよく起きてたんだって。僕は知らないんだけど…」


 ピコが恥ずかしそうに顔を小さな両手で撫でると、ニーモが付け足して言う。


 かなり揺れるため、ミクは膝をラーンスに貸し、彼の頭を支えながら、その砂の十字架を見つめていた。


「ドラグーンの前陛下が休戦協定を結ぶまでは、酷い有様だったさ。砂漠に無造作に散った命を悲しんでシャア様が十字架を立てた。その名残があれだ」


「シャア陛下が…」


 静かで優しげなあの人の悲しみがよくわかる。


 人の形を模した十字架に、人々の思いを馳せたのだろう。


 ミクが泣きそうな顔をしていると、ピコが慌ててわたわたとした。


「もう闘いはないよ!楽士様、あの…あ!ドラグーンの完全体!」


 ミクが幌馬車から顔を出すと、ドラゴンが飛翔している。


「シャア陛下!……違う…山吹色のドラグーン…」


「じゃあ、イーズ殿下だ!」


 ピコがドラグーンに手を振ると、


「お珍しいな、イーズ殿下が変幻なさるとは」


 ニーモが呟き、足早に幌馬車はヴェスパの門をくぐった。


 その先には服を纏った美丈夫のイーズが心配そうに待っていて、足早に歩み寄って来る。


「ミク、大丈夫か?爆砂があったと報告を受けたが…」


 ミクはラーンスの頭を支えたまま動けずに、イーズを見上げた。


「ラーンスが助けてくれました。砂ムカデをやっつけてくれたけど…それから起きないのです」


 イーズが一瞬眉をひそめ、


「俺はドラグーンの医術師だが、人も診ることが出来よう」


と幌馬車に体重も感じさせず乗り込むと、ラーンスを軽々と抱き上げる。


「部屋へ浴槽と湯を、治療をする。楽士殿には休息を!」


 イーズの言葉に、集まっていたヴェスパの人々が一斉に動き出し、ピコとニーモが幌馬車から出たミクに頭を下げて夕方の砂漠をブルーラグーンに向かって進んでいった。


「大丈夫だ。ルートに入る砂ムカデはラーンスが倒したのだろう?奴らは縄張りをわきまえているから、大丈夫だ」


その縄張りから砂ムカデがいなくなった今、少しだけ安心なのだろう。




 

 ヴェスパは禿げ上がった長が言っていた通り素朴で、湖から取れる魚と芋を茹でたものに、スパイス香草を乗せて塩をかけたヴェスパ料理を食べ、ミクはヴェスパ長に請われて『きらきら星』を弾いた。


「初めて聞く音だ」


 バイオリンの音色への賞賛や評価を口々に言い合い、聞きなれない音のせいかヴェスパ長の土煉瓦の家に人が集まっている。


 体格のいいドラグーン族で、部屋は飽和状態だ。


「素晴らしい、さすが陛下の楽士様だ」


 なんやかんやの褒めの言葉のあとさらに宴会となり、ミクは主賓のはずが宴会の余興のように弾き続ける羽目になる。


 その賑やかな宴にもイーズは出てこなかった。

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