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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十八章 混乱するオアシス
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混乱するオアシス8

ご無沙汰です

「なんっ…なんだ、あの赤毛は。東の田舎騎士かなあ?」


 裏道の隅で喧騒の見物をしていた商売人風に装ったロングビスが、隣にいるヨーグルとマンボに苦笑いする。


「次の手に移りますね、ビスさん」


「頼むよ」


 ロングビスはにこりと目を細めた。


「しかし、本当に炙り出せますかねえ、辺境人」


 マンボの言葉に賑わう市を歩き始めたロングビスは、


「うん」


と頷きつつ寝ぐらにしているアパルトに向かう。


 賃貸のアパルトもそろそろ引き払い、ヴェスパに行かなくてはならず、砂ロバと案内人のネズミには砂金を支払った。


「辺境人は争いを好まない。争いを作れば何らかの形で現れる。知恵の実が生きていれば…ね」


「砂漠で干からびてるとかは?」


「それじゃあ、面白く無い」


 ロングビスは弓形に瞳を歪めて、痩身のため低い階段をくぐりながら部屋に辿り着いた。


 すでに甘水はあちこちの店に安値で販売し、その中の何個かに二十日花の根を漬けたものを混ぜている。


 興奮作用のある甘水で、ガーランド遊撃隊では戦闘鼓舞のために飲んでいるものだが、他国には馴染みがないものだろう。


「いい感じだね。マンボ、実にいい感じだ。さあ、頼むよ」


 噂も広まり、ヴェスパはピリピリしている。


「もちろんです」


 マンボが手にした三つの鋼のしなりを持つ『鉄の爪』は、ウォールフの戦闘時の爪を模したものだ。


「しかし…これで辺境人を本当に炙り出せるんですか?ビスさん」


 マンボがもう一度ロングビスに聞く。


「知恵の実と呼んだ方がいいね。あれの性質は基本、平和、平等、話し合いだよ。馬鹿馬鹿しいったら。でも、そんな知恵の実は、闘いなんかの緊急事態に能力を発揮する。僕らの知らない知識、行動、音声、臭気も含めて目を配るんだよ」


「は…はい、ビスさん。わかりました。知恵の実は捕獲後どうします?」


「ガーランド王国に連れて帰るよ。あの方がお待ちかねだ」


 今回はマンボだけが動き、ヨーグルはサポートだ。





 夕方…。


 背中に三本筋の入ったドラグーン族の死体が、港オアシスを出て少しの砂漠で発見された。


 ウォールフ族の爪になぞらえたそれにいきり立つドラグーン族の男が、その死体をヴェスパに連れていく。


 それこそがロングビスの蒔いた種が、花開く瞬間だった。


 噂は噂を呼び、懐疑は懐疑を生み、虚偽が真実にすり替わる。


「なんて甘美なんだろう…」


 死体が砂漠を飛んでいく。


 実際には二人のドラグーンに抱えられてだが。


「出てきてくださいよ、知恵の実」


 ロングビスは細い目を更に細めた。




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