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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十八章 混乱するオアシス
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混乱するオアシス6

 花売りの女たちは、それが仕事であり誇りを持っているように見える。


 女たちが洗濯をしているオアシスの水辺で警護をしている陸は、ぴりりと周囲を警戒しているが女たちは朗らかだ。


「器量がないなら、床上手ってね」


「それでも駄目なら、話し上手。ねえ、あんた辺境人なんだって?何か面白い話を聞かせておくれよ」


 一人でいる陸に、ぽっちゃり気味の女がすり寄ってくる。


「や…やめてください」


 本気で嫌がったが、ぽっちゃり女は自慢の大きな胸をゆさゆさと揺らし、


「お連れは女同士の仲のようだけど、あんたはどうだい?」


と笑った。


 辺境の常識なんかぶっ飛ばしてくれるこの世界だ。


 花売りは女の仕事らしいが、客は男女どちらもいて、ぽっちゃり女も何が良いんだかそこそこに売れっ子らしい。


「私は女も男もごめんです。それに私は面白い話など…」


 陸が逃げ出す算段で身体を捻るが、ぽっちゃりに捕まってしまい、


「そんなこと言わずにさあ…」


と、もっちりとした胸を腕に押し付けて来て、


「ひぃっ…」


 陸は思わずナイフを抜きそうになる。


 しかし裏手の喧騒に女が飛び上がり、陸は解放されその騒ぎに歩み寄った。


 羽を広げた男と、頭に三角耳を生やした男がいやに伸びた爪を出している。


「ドラグーンとウォールフが喧嘩だよ。オアシスの違反してる!いやだ、警備を呼ばなくちゃ」


 女が慌てるが、今度は陸が女を止めた。


「違反?彼らは…」


「オアシス内では、許可なくして羽と爪を出しちゃあ駄目なんだ。闘いの合図だからだ。ああ、大変だ!ちょっと、誰か!」


 ドラグーンとウォールフ…陸が野次馬が遠巻きになりつつある二人の前に陸は飛び出す。


 まさに一触即発、爪を立てようとした男と、剣を抜いて斬りつけようとした男の真ん中で、短剣の柄を反対にし腕に刃を押し付け、両腕で互いの刃を受けてめる。


「ぐっ…う!」


 重い…。


 剣も爪も…相手は上背も高く、ドラグーンは体格もいいので、陸は膝がふらついた。


「邪魔するな!」


「引っ込んでいろ!女!」


 泡を飛ばしながら、泡ガラスの容器の中身を飲み干したウォールフの男が犬歯をカチカチと鳴らしながら、


「大体よう、ちっぽけなオアシスのヴェスパごときがぁ…」


とふらつきながら絶叫する。


 目が据わっており、陸はこんな様子の兵士を海外で何度も見たことがあった。


「やめてください。ここは往来ですよ!」


「うるさい、貴様もウォールフか!」


 ドラグーンの男が剣を振り回し、ウォールフも何故か陸に襲いかかる。


 短剣で応戦し必死で振り払った。


 まともじゃない。


 陸は二人からの攻撃を短剣でかわしながら、長剣の柄に手をかけてしまい、


「ちっ…」


と舌打ちをした。


 こんな時に海の白はう…お嬢様聖水配合閃光弾…があれば、目くらましになるのに…。


そう考えながら間合いを取る。


「女ぁーー!」


 短剣でしのぐ陸はドラグーンの長剣をギリギリで跳ね除け、足で長い脚の脛を蹴り倒し、ウォールフが無防備になった背後から爪を立てて来た瞬間、陸はおもわず目を閉じた。


「ぐ…ぎゃあっ…」


「ひっ…ぎゃ…」


 茶色の風が目の前を過ぎて手前と背後に回り込み、陸の前から消え、男たちの無様な悲鳴が短く青い空に響く。


「え…」


「俺のオアシスで羽と爪を出すな!ったく!」


 後ろを振り返ると、思わず見上げた陸は息を飲む。


 二足歩行の熊がウォールフとドラグーンの男たちの頭を軽々掴み上げ、左右軽くぶつけ合い失神させ地面に落としたのだ。


 ウォールフは背が高いが、この熊はさらに大きな体躯で、人のような深いため息をついた。


「ベアードさんだ!」


「ベアードさんっ!さすがだオアシス長!」


 ベアード、ベアードと歓声が上がり、熊が陸に手を伸ばす。


「剣士よ、俺のオアシスで短剣で闘ってくれて、礼を言う」


 モフルーの握手は、認めたもののためだけにある。


 かつての師匠の言葉だ。


「短刀は守るために、長刀は奪うために。師匠の教えです」


 陸は港オアシス長の熊、ベアードの固く器用そうな手を掴み、握手をした。

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