混乱するオアシス3
身体中のあちこちを見られて真っ赤になるミクを完全に無視して、レイモンドが安心したように息を吐いた。
「もう、なんなんだよ!服を返して!」
レイモンドがあの大きな狼だったとしても、今のレイモンドはミクと同じくらいの背格好の子どもで、しかも、さっきまで涙を溜めていたのだからと、ミクはレイモンドに摑みかかる。
「え、うわっ!ミク、待って」
服を渡そうとして反転しかけたレイモンドを押し倒す形となり、
「うわあっ」
と二人で草むらに転がってしまう。
ミクはレイモンドを草むらに押し付けていて、びっくりしつつ
「ご…ごめん」
と慌てて上から退こうとするが、レイモンドの腕がミクの首に巻き付く。
「あの…」
「レイモンド…レイだよ、ミク」
そのまま抱きしめられ身動きができなくなり、息苦しくて
「…レイ」
と声を絞り出した。
「あ、ごめん。ウォールフは力が強い」
少し腕が緩まるが、ミクを離す気は無いようで、ミクは諦めてそのままになる。
「ミクは自由民なんだね。よかった。僕は奴隷には反対なんだ。あんなの、おかしいよ」
やっと腕が離れ、
「はい、これ」
服を渡されようやくミクは座り込むと頭から服を被る。
「それはブルーラグーンの模様の入った黄金刺繍だ。ミクは自由人だろ?どこにいくのも、どこにいるのも自由だ。だったら僕といようよ。僕も君も一人だ。僕らは同じなんだ」
白鳥を見て、互いに孤独を感じていたミクとレイモンド。
一人は寂しい。
一人は苦しい。
手を差し伸べても跳ね除けられたミクと、孤高なために手を差し伸べてもかしずかれるレイモンド、二人は孤独の中にいた。
だからこそ、魂が揺らいだ。
同じだからだ。
しかしミクには…手を掴んでくれ、包んでくれた人がいる。
「僕はシャア陛下に助けられた自由民なんだよ。陛下には恩があるんだ…」
シャアから離れて過ごすことも寂しいと感じるのに…。
「シャア…ドラグーンの長か。もっと早く、もっともっと早く、僕がミクに会えていれば…。僕らは出会うのが遅すぎたんだ」
レイモンドの真っ赤な瞳からほろりと涙が一粒溢れ、ミクも泣きそうになる。
「モフルーが来ている。ミクも戻らないと…」
ピコの声が聞こえて来た。
砂漠の風がレイモンドの涙を掬っていき、ミクは俯いたまま立ち上がる。
まるで魂の一部が切り離されたようだった。