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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十八章 混乱するオアシス
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混乱するオアシス3

 身体中のあちこちを見られて真っ赤になるミクを完全に無視して、レイモンドが安心したように息を吐いた。


「もう、なんなんだよ!服を返して!」


 レイモンドがあの大きな狼だったとしても、今のレイモンドはミクと同じくらいの背格好の子どもで、しかも、さっきまで涙を溜めていたのだからと、ミクはレイモンドに摑みかかる。


「え、うわっ!ミク、待って」


 服を渡そうとして反転しかけたレイモンドを押し倒す形となり、


「うわあっ」


と二人で草むらに転がってしまう。


 ミクはレイモンドを草むらに押し付けていて、びっくりしつつ


「ご…ごめん」


と慌てて上から退こうとするが、レイモンドの腕がミクの首に巻き付く。


「あの…」


「レイモンド…レイだよ、ミク」


 そのまま抱きしめられ身動きができなくなり、息苦しくて


「…レイ」


と声を絞り出した。


「あ、ごめん。ウォールフは力が強い」


 少し腕が緩まるが、ミクを離す気は無いようで、ミクは諦めてそのままになる。


「ミクは自由民ナーザールなんだね。よかった。僕は奴隷ザールには反対なんだ。あんなの、おかしいよ」


やっと腕が離れ、


「はい、これ」


服を渡されようやくミクは座り込むと頭から服を被る。


「それはブルーラグーンの模様の入った黄金刺繍だ。ミクは自由人だろ?どこにいくのも、どこにいるのも自由だ。だったら僕といようよ。僕も君も一人だ。僕らは同じなんだ」


 白鳥を見て、互いに孤独を感じていたミクとレイモンド。


 一人は寂しい。


 一人は苦しい。


 手を差し伸べても跳ね除けられたミクと、孤高なために手を差し伸べてもかしずかれるレイモンド、二人は孤独の中にいた。


 だからこそ、魂が揺らいだ。


 同じだからだ。


 しかしミクには…手を掴んでくれ、包んでくれた人がいる。


「僕はシャア陛下に助けられた自由民ナーザールなんだよ。陛下には恩があるんだ…」


 シャアから離れて過ごすことも寂しいと感じるのに…。


「シャア…ドラグーンの長か。もっと早く、もっともっと早く、僕がミクに会えていれば…。僕らは出会うのが遅すぎたんだ」


 レイモンドの真っ赤な瞳からほろりと涙が一粒溢れ、ミクも泣きそうになる。


「モフルーが来ている。ミクも戻らないと…」


 ピコの声が聞こえて来た。


 砂漠の風がレイモンドの涙を掬っていき、ミクは俯いたまま立ち上がる。


 まるで魂の一部が切り離されたようだった。

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