子供の凱歌10
改稿済
ハイムが王の私室は二階の方がいいと言い出したものだから、東の対岸から持ってきた日下博士のログハウスをどうやったら一階の上に上げるかを悩んでいた。
「ったく…余計なことを言いやがってぇ…」
男三人がかりで作り上げたログハウスをどうやったら上に上げらられるか悩んでいると、ティータがやってきてファナが頭を抱えているのを見て、
「風で上げたらどうかしら?」
と声を掛けて来る。
「風で?」
屋敷の裏手に積んである木材の山と格闘していたハイムも屋敷の前に回り込み、木を削っていたラビットもやってきた。
家の裏手はまっすぐの針葉樹が多く生えており材木に事欠かないが、あまり切ってしまうと崖からの海風がまともに来てしまい、調節をしながら切っているのだ。
北の岬の端にある瓦礫と化した黒の楽園を見ることの出来る、ファナ命名おじいさまの鼻岬は北東の断崖絶壁であり、まるでフィヨルドのようだ。
それを背にして屋敷は建っていた。
正直…もう少し建てるところを考えてほしかった…とジューゴは思わないでもないが、もともとハイムがリムと住むために造った「小さい我が家」を半分乗っ取ったような状態なのだから仕方がない。
何度目かの失敗の上、ファナが疾風を起こそうとしたとき、引っ込んでいたティータが慌ててノーパソを持って走り込み、意外な再会を果たしたのだった。
「悪いな、南からのルートはファナの力で森を抜けられないようにしているんだ」
ファナは見たことのある黒馬からマクファーレンを降ろすと、ダグラムが息を吐いた。
「騎士様、お水をどうぞ」
クリムトが杯を持ってくるとダクラムが、
「ありがとう」
と手にして口をつける。
「む…旨い」
一気に飲み干したダクラムに、
「はい。甘水を少し混ぜております。疲労回復になりますわ。さあ、女騎士様こちらへ」
クリムトが優しく微笑んだ。
ファナは肩を貸しそうとしたマクフォーレンをクリムトに渡すが、マクフォーレンのほうが体躯があり、クリムトが支えきれないため、ジューゴがそのまま屋敷内に運び込む。
「あんたは…誰だい?」
「後でお伝えしますわね、女騎士様」
客間に連れて行き寝台に寝かせると、甘水入りの杯を二杯ほど飲み干したダクラムも部屋に入ってきて、ファナとお付きのティータもはいって来て、ぎゅうぎゅうすし詰めだ。
「ハイム、家づくりは中断だな。風呂を沸かしてくれないかな?俺は煮込みを作る」
「ラビット師匠、兎は取ってくるのか?」
「干し肉でよかろうな。ともかく風呂だ」
「おう!」
ラビットとハイムがおもてなし準備をしている傍ら、
「わたくしはクリムトと申します。南の領主でした」
と、どう見てもリムに見えない白いフリルレースでドレスアップしているクリムトにマクフォーレンが頭を下げる。
多分勘違いをしている。
こいつはリムでしかも、男なんだか…。
ファナはここではおし黙る。
もはや面倒だ。
「でした…?ああ、すまないね。そう…そうだね…南は…」
一人心地思いを巡らせたマクファーレンが、
「マクファーレンだ。元楽園騎士団の…」
身じろぎをして、顔を歪めた。
「まああ、ご丁寧に。わたくし、医術も学んでおりますの。どうされました?女騎士様、背中に違和感が?」
「背中がちくちくして…伸ばせない…」
マクファーレンのその言葉にジューゴは
「あ!抜糸。あれから七日か!服脱げ、マクファーレン!」
と背中をあらわにしたマクフォーレンの背を見た。
まだ糸がある。
どうやら傷口を縫うということがこの世界ではまだ知られていないらしく、七日…ぎりぎりの抜糸だ。
「こんな長く深い傷で…既に傷が塞がっているのですか…?」
クリムトが驚き、ハサミを手にしたファナを見上げる。
「クリムト、医術も学んだと言ったな。抜糸するから、消毒してくれ。ティータ、マクファーレンの手を握って動かないようにしてくれないか?」
ファナがピンセットで血の固まった糸を引っ張るとマクファーレンが微かに呻き、ティータがうつ伏せのマクファーレンの両手を握りしめた。
糸と肉の隙間にハサミを入れ糸を切ると引き抜き、僅かばかりの出血をクリムトが拭き取り消毒をする。
左の肩甲骨から右腰までの傷の抜糸を済ませると、クリムトが布を当てて包帯を巻くが、大きな胸が邪魔をして四苦八苦していた。