子供の凱歌9
すみません、いろいろありまして、今日はここまで。
尻シリーズと同期しているノーパソが反応して小さなアラームを鳴らし、相棒であるティータを呼ぶ。
「む。何、ノーパソ?」
ティータはクリムトの手伝いで作っていたサンドを、テーブルに置いた。
ティータとノーパソは一人と一台で一人前のリムであり、この世界で唯一の『電脳のリム』だ。
「ティ様、どうなさいました?」
「馬」
「はい?馬ですの?」
ノーパソをクリムトに見せると、真っ黒な馬がノーパソの画面の真ん前に映っていた。
「あら、この馬は騎士馬ですわね。主人を呼んで脚を鳴らしていますわ。警戒をしているのですの」
クリムトの言葉に、ティータはクリムトを嘆賞の眼差しで見上げる。
「あらあら。当然の常識ですわよ。わたくしはリムでありながら『ヒト』として育てられましたもの。お忘れでして?わたくし、領主でしたのよ」
「変態領主だわ…」
「男娘には褒め言葉ですわ。あ、ほら、騎士様が…」
オホホホ…とまるで芝居掛かったように笑うクリムトが、
「あら、イケメン。なかなかかっこいい騎士様ですわよ、ティ様」
と、むうっ…とするティータに、ノーパソから学んだ辺境スラングをここぞとばかりに使用する。
「ほらほら、ティ様!」
ノーパソの画面を覗くと、
「あ!」
と叫んだ。
見たことのある黒尽くめの騎士が、見上げていた…尻二号を通じて。
「あ、あ。ファナ様!」
「ティ様!あ、ちょっと!」
ティータはクリムトからノーパソを奪い返すと、慌てて厨房を飛び出しファナを探して外に出た。
外ではログハウスをどう組み立てるかで、先程まで真剣に悩んでいたから、屋敷の裏にいるはずだ。
きょろきょろと探すと、ファナがまだ悩んでいた。
その横にラビットとハイムがいて、ハイムが満面の笑みを浮かべるのを無視して、
「マスター、これ!」
とノーパソの画面を見せる。
そこにはまだ騎士がいて、ティータは安心した。
「どうした、ティータ?」
「これ!騎士様!」
あの時の…あの時の…。
ファナが
「あ!」
とティータを肩車したまま叫ぶ。
「ダグラム!ダグラムか!どうしてここに…」
〈ファナか?〉
画面の中の騎士はやはりフーパの屋敷で、ティータたちを救ってくれた騎士で、尻は女騎士をも映し出していた。
木にもたれかかり体調が悪そうでファナが、
「森を開いてくれ」
と言う。
「わかったわ。尻で誘導してみるわ」
小さなリムは、尻を通じて騎士に声を掛けた。