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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十七章 子供の凱歌
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子供の凱歌8

「でも…眠くはないね…続けて…」


 マクファーレンの手が緩みそうになり、ダグラムはマクファーレンの胸に腕を入れ、少し引き揚げてやる。


「普段だったら…ぶっ殺しもんだけど…特別だね…」


「ああ、役得と心得た。入団テストでラビット大隊長の剣合わせで歯も立たず、入団後もラビット大隊長の稽古や模擬戦に担ぎ出されたわけだが…。単に大柄な相手と組みたいと言うことでな。他の奴らは楽をしていたわけで…その分俺は強くなれた。ラビット大隊長の警護が主で、レンとラーンスとが初めての隊活動なのだ」


 ラビットが東の駐屯地の壊滅の責任を取り、本来事務官である副大隊長に大隊長の座を譲った後、ダグラム隊を結成しようにも、不吉な黒剣にリムが寄り継がず、それにより隊も編成できず、ラビットが助けた騎士見習いラーンスと新たに騎士となったマクファーレンと組んだのだ。


「ほんっとつまんない…。平凡な動機と…平凡なお坊ちゃん…。特別なのはその剣とラビット直伝の剣技。でも、あたしたちは…結構楽しかったさ。あんたと組むの…」


 マクファーレンの息が小刻みに荒い。


 明け方の森はさらに深くなりどこを走っているのか分からないが、黒馬は嘶き川尻に入ると歩を緩め水を飲み始め、ダグラムは黒馬から降りるとマクファーレンを降ろし抱き上げると、小さなカップで川の水をすくい口元に運んだ。


「少し休め」


「ああ…あたしが死なない程度に起こしておくれ」


 本当にそうだ。


 体力が無くなっているマクファーレンを一刻も早くゆっくりと休息させてやりたいのだが…。


「ここは…アギト川か…?」


 北と東の分断となっているアギト川を上流にさかのぼっている。


 東のほとりにラビットが昵懇じっこんにしていたグランツの一人の家があると聞いていた。


 ラビットが隊をやめた後その者を訪ねていく最中、ジューゴを拾ったと話していたし、もしかするとその家にラビットがいるから黒馬が向かっているのかもしれないが、果たして東といえばガーランド王国の領地内ではないか。


「これは…どうしたものだな…」


 黒馬が静かに草を食んで嘶き、日がすっかりと高い暑くなりかけの太陽を見上げる。


 太陽が黒い影を落とし、ざあああ…と風が舞う。


 黒い影は白かった。


「なんだ…?巨大な…蝶…蛾?」


 真っ白な巨大な蛾が鱗粉をまき散らしながら、森の奥へと高空を飛んでいく。


「なんなのだ…あれは…」


 初めて見る巨大な蛾にダグラムが驚いていると、


「モフルーだろうさ。あたしたちとは関係がない…。ダグ、黒馬がおびえているよ…」


と薄目でマクファーレンが黒馬を見やった。


「ああ、分かった」


 黒馬ば木の上を見上げて繰り返し嘶き、前脚で土をかく仕草を繰り返しており、極度の不安と緊張を感じさせた。


「む…何か」


 ダグラムは黒剣を抜いて茂った木の下に向かうと、木の張り出した枝を見上げる。


 丸い黒玉のような物がそこに止まっている。


「なんだ、お前は…」


 手のひらサイズのまん丸の球体は、ダグラムに気づいたのか身じろぎをして巨大な目を見開いた。

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