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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十七章 子供の凱歌
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子供の凱歌7

 真新しい背中の傷は信じられないが縫合されており、致命傷のはずなのだが生きていた。


 それをジューゴが行ったと言うから驚きだった。


 もはや壊滅的な南駐屯地だったが、その半数は『ガーランドに寝返った』のだと、遠巻きにしている村人がつぶやいていた。


 ガーランド遊撃隊という凶暴で圧倒的力の前で、リムを守るためにしか剣を振るわない…いわば守護の騎士団など赤子同然だった。


 心ある者がマクファーレンを寝台の下に隠しただひたすら戦ったのだと、悔しがりながら語り死んだ老年の騎士は、中央から下った騎士だ。


「すまないね…あたしのせいで…」


 マクファーレンがうめきながら、背後のダグラムにつぶやく。


 彼女を救出して至る間に、楽園騎士団中央本部はガーランド遊撃隊の奇襲に遭い、衛兵とだった二隊のみの駐屯騎士は惨殺され、そしてカミュ大隊長は本部ごと焼け落ちてしまっていた。


「いや…どのみち、俺でも奇襲を受ければ死んでいた。ある意味レンに助けてもらったと言える」


 黒馬は夜目が利くのかぶつかり惑うことなく、大柄な二人を乗せて失速もせず走り続けている。


 正直…中央生まれの中央育ちのダグラムには、北のことはよく変わらない。


「それにしたって…ダグ、あんた、あの屋敷の構造を…知りすぎてはいないかい?」


 ダグラムはふっ…と息を吐いた。


「あれは、俺の家だったからな。もっとも、祖父が亡くなった後は中央市場の近くに屋敷を建てていたから、俺自身は五年ほどしか住んでいなかったが、祖父の部屋は俺のお気に入りの遊び場だったのだ」


 だからこそマクファーレンの休息のために森から入り込んだ。


 何日か分の食べ物を持ち込んでいる最中に、楽園の残党となりさがった騎士たちと出会ってしまい匿っていたのだが、どうにもガーランドの王子に一泡吹かせたいと息巻きあの惨劇になってしまったのだ。


 あの剣は…いや…あの体質はやっかいだ。


 鋼に黒曜石を融合させたこの剣でなければ、この雷鳴は凪ぐことが出来まい。


 ただの猪突猛進だけでは、ガーランド軍には勝てはしないだろう。


「夜明けまで走ることが出来るか?黒馬よ」


 中央…いや…セントラルの端を抜け斜めに森にさしかかると黒馬がしきりにあたりを見渡し、さらに何かを探すように見据えた後再びギャロップで走り始めるが、その上でマクファーレンの体が傾いでダクラムは慌てる。


「レン!」


 マクファーレンは血糊が黒く変色したシャツを羽織り、黒馬の鬣を握りしめながら、


「なんか…話してくれないか…眠くなっちまう…」


と力なく言葉を吐く。


 馬を止めて休息を取らせてやりたいが、このまま追っ手が来ないとは言い難く、黒馬が疲れてしまうまで走らせることにしていたのだ。


「俺の話など面白くはない」


「つまんない話でもいいさ。…ダグ、あんたはどうして騎士になったんだい?」


 ダグラムは月明かりに金の眉をひそめる。


「本当につまらいぞ。聞いて呆れるな」


「いいから、話しな」


 ダグラムは覚悟を決めた。


「俺は商家の三男で…ラーンスに言わせると、坊ちゃんだった。長兄は家を継ぎ、次兄は土地を持ちリムを呼び…。俺は識字も学び体躯もあるから、騎士の入団テストを受けたのだ」


「本当に…つまんない…ね…」


 マクファーレンが軽く笑うのに、ダグラムはむっとする。


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