子供の凱歌4
雷の発光を纏う剣を振りかざしクルイークは、男の剣に跳ね返された瞬間、男がグリップを返し剣を叩き落としてきた。
「ぐっ…何故だ…」
雷鳴剣の雷が男に効かないなんて…。
叩き落とされた剣と、打たれて痺れた手を見つめ、クルイークは男を睨み上げた。
「ほう…我が黒曜剣は貴方の力も無効化するようだな。リムの力を無効化するように」
「馬鹿な…そんな剣を…」
「中央の武器屋に埃まみれで混じっていた。黒剣など、皆が触らなかったが…」
「貴様は…物好きだな」
間合いを取りつつ、落ちた剣を蹴り上げそのまま男に切り掛かるが、簡単にあしらわれ怒りに身を任せ素手で男に殴りかかり、その手の帯電が男の腕に触れる前に男が身を翻す。
「ちっ!くそっ…」
「悪いな、想定内だ。動けるか、お前」
倒れていた騎士団の男が、よろよろと立ち上がり頷いた。
雷鳴で死ななかったらしいが、ダメージは相当あるらしい。
あとは絶命していた。
当たり前だ、そのように剣を凪いだのだから。
クルイークは逃げ出す男を一瞥し、黒曜剣を持つ男に向き直った。
「見事な腕だ。貴様、名前は?」
「楽園騎士団中央所属隊長ダグラム…もはや元だが…」
ダグラムと告げた男が女に後ずさり、女に肩を貸す。
赤毛の女は体調が悪いらしいが、必死で気丈にしていた。
「そこの女は東特有の真紅の髪だ。どうだ、僕の元に下れ」
クルイークの言葉に、赤毛の女が鼻で笑う。
「馬鹿馬鹿しい。あたしはガーランドのチロルって女を心底憎んでる。だから、あたしは絶対に組みしたりしない!ダグラム…すまない…ね…」
「マクファーレン…大丈夫だ。クルイーク王子、悪いが貴公には従えない」
黒曜剣は脅威だが、ここで無様に負けるわけにはいかないし、そもそもこの男に戦意は見られないのだ。
赤毛の女を庇うようにしている男の前で、無防備に両手を開いたクルイークは、
「僕の仕事は果たした。お前たちに今、僕を害する必要がないならば、消えるがいい」
と不遜に言い放った。
これだけの死体があれば、隠れている事務官も満足だろう…。
「もちろんだ。俺たちは彼女の休息のために隠れていただけだ。見逃し感謝する」
黒曜剣の騎士と赤毛の女がゆっくりとベランダに消えていくと、リムの技を解いたミロスが慌てて走り寄って来るのを目端に捉えながら、床に落ちた雷鳴剣をクルイークは拾い上げる。
「大丈夫ですか、マスター!」
「大事ない。これでいいのか、……ザキ」
ザキが血のない死体に驚きながら、丸眼鏡をずり上げた。
「素晴らしい…素晴らしいですぞ、閣下」