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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十六章 砂漠の楽士
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砂漠の楽士10

 裸体のレイモンドをぼんやりみていると、


「なに、じろじろ見ているのよ。やな人ね」


と女の子がレイモンドに服を渡しながら、ミクを睨む。


「す…すみま…」


 ミクと変わらない背丈の女の子だが、ミクのほうがいかんせん痩せていて、カンドーラの金の繍をじろじろ見られ、短めに切ってもらった腕抜きビシュートを鼻で笑われてしまう。


「フラウワ、ブルーラグーンの騎士を頼む。しばらく休ませてやって」


「え?レイ?」


 ミクは服を着たレイモンドに引っ張られて、丘を降りてしまい、


「ラーンスが…」


と慌てるが、レイモンドが


「ダイナナの特別を見せたいんだ」


と無邪気に駆けていく。


「レイ、レイモンド、待ちなさい!」


「無理!こんなにワクワクしたの、初めてだよ。ミク、おいでよ。フラウワ、騎士を頼んだよ。僕の寝台でもいい、寝かせてあげて」


 手首を掴まれたミクは従うしたかなく、


「ラーンスを…お願いいたします」


と小さく呟いて頭を下げた。


「う、もう!」


 フラウワが何やら叫んでいるのが聞こえたが、ミクはバイオリンケースと共に、湖のほとりまで走らされたのだ。


 転ばなかったのが奇跡と言いたい。


「はーっ…はっ…はあっーっ…」


 息を切らしたミクの横で、呼吸すら乱さないレイモンドが真っ赤な唇を綻ばす。


「時間に間に合った」


「な…何が…」


 多分湖の一番端だと思われる場所に桟橋があり、魚を取るための小舟が結わえられていた。


 昼前の日の高さはじりじりと暑いが、ダイナナは森があり豊かな湖のお陰かあまり感じさせない。


 同じ太陽なのに不思議だ…。


 ミクはひとけのない湖で、ひとつの白を見た。


 湖に降り立った白い鳥が、またすぐに空に飛び立つ。


「あっ…」


 たった一羽の真っ白な鳥が湖の青と空の青の真ん中、染まらないで飛んでいった。


 ミクは中学時代に感銘を受けた短歌を思い出す。


 白鳥は悲しからずや

 空の青にも海のあをにも 

 染まずただよふ


 白鳥は悲しくはないだろうか、いいや悲しいにきまっている。どちらの世界にも染まらずに漂っているのだから…。


「あいつは毎年、この日に来ているんだ」


 まるで自分のようだ。


 ミクは白鳥は自分だと感じた。


 悲しくないわけではない。


 むしろ悲しかったのだ。


「ミクの音は…少し悲しい」


 ミクはレイモンドの顔を見た。


 真っ白な綿毛のような髪の中で、青銀の澄んだ瞳がミクを覗いている。


「涙」


「え…」


 ミクは自分が泣いていることを…初めて知った。


「僕も…悲しかったから」

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