砂漠の楽士9
「第三者が立ち入っているようだ」
シャアも思い立つが、そもそも西の乾いた大地に介入して何になると言うのだろうか。
ドラクーンもウォールフもモフルーの森のさらに奥のヴァンピールですら、只人より遥かに強く、そもそも種が違うのだ。
勿論、交流もあるし少なからず種の交わりもある。
それで完全体が減少していると長老たちは話していたが、母が繰り返し呟いていた
『種としての限界』
がぴったりしているような気がしていた。
そんな滅びに向かう種に、何をしようというのか。
「私もそう思います。だが、乾いた大地に何のための介入か…」
「気にかけて置くようにしようかの」
「ところで、ご子息殿下は?成人されたのでは?」
テールズが立ち上がり苦虫を噛み殺した表情をし、そのあと見守るリーフに礼を取ると、シャアに手を出した。
「見合いの姿絵を次々に見せたら、家出をしおってのう」
ここでもか…と、シャアは苦笑いをする。
レイモンドはつい先頃成人したばかりなのに、もう番うように求められていた。
ウォールフの聖なる獣…完全体である所以だ。
「そなたも同じか」
と、テールズに言われると、
「いえ、私は…まだ弟のイーズもおりますし。陛下、レイモンド殿下はまだ若い。それに陛下にはまだご子息がいらっしゃるはず」
シャアは濁した。
「あれは、国を離れた。あれには…もはやあれの生き方しか出来はしまい…」
苦渋のままゆっくりと歩みを進める老体に付き添い、シャアはウォールフの悲劇の一端を思い出す。
母から聞いたことだが、弟たちが生まれるときは最新の注意を払ったものだ。
「大丈夫だ。我々には白き疾風がいる。蒼き伝説などもはや必要がないのだ」
年老いたテールズの言葉が…重かった。
白狼が降り立った花が咲き誇る丘には、一人の女の子がいて、ミクは少し身体を固くする。
なぜならば、高校でミクをいじめてきた中心の女生徒によく似ていたからだ。
髪の色は違うのだが雰囲気がよく似ていて、
「レイモンド!もう、レイ!何を勝手にしているの!」
と甲高く叫んでいた。
「ミク、大丈夫?乳兄弟のフラウワ。少しうるさいんだ」
ミクとラーンスを降ろすために身を伏した白狼が、
「レイモンドだよ、ミク」
「僕の名前…」
「そばかすの金髪が呼んでいただろ?ウォールフは耳がいいんだ」
とミクたちが降りると、身体をぶるりと震わせた。
霧がかるような光が包み、真っ白な肌に、真っ白のモヘアみたいなふわふわの髪…青銀の瞳がよく似合っていて、びっくりするほど赤い唇が印象的だ。
ラーンスも男の子にしては綺麗だなと思っていたから、それとは違うのだがまた綺麗な人がいてミクは驚く。