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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十六章 砂漠の楽士
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砂漠の楽士8

 イーズの言葉にシャアは眉をひそめ、ベランダに向かうと正装のまま背中から羽を出した。


「ミクが誰かの物になってもいいのか?」


 護衛は三人と決まっている。


 護衛も正装をし封印を施した剣を携帯していて、それは森から出るまで外すことは許されないのだ。


「ミクは自由民(ナーザール)だ。私が口を出すことではない」


 一斉に羽を広げ、シャアよりも先に空へ羽ばたく。


「では、なぜ、ミクを手元に…いや…今言うことではなかったな。陛下、ウォールフのテールズ陛下によろしく伝えてくれ。あと、レイモンド殿下にも、な」


 シャアは無言で頷き髪をなびかせると、天空に飛び上がった。


 二人が先頭にシャアを挟んでしんがりを年若い護衛が全体を見渡す。


 慣れた空道ではあるが、風向きは気を付けるにはこしたことはない。


 ブルーラグーンを通り過ぎ、右手にはムーンガルドが見え、その先にモフルーの森がある。


「陛下、森に近づきます」


 モフルーの森はまるで虹のような光の層の中にあり、揺らめく光に目が眩んだのか若いドラクーンが失速した。


「大丈夫か?」


 護衛の手を取ると、


「すみません、陛下」


と平謝りになるが飛べないことは明白で、前を飛ぶ護衛に引き渡す。


 もちろん地を行くウォールフも虹のような壁に遭遇しているようで、虹の織り成すドレープを通り越えると光輝く世界樹湖があり、いつものように白いドレスの女が立っていた。


 世界樹湖の畔に降り立ったシャアは、護衛を湖の畔に残し、世界樹の島への一本道を渡る。


「ようこそ、ドラクーンの王」


 儚いほど細く美しい妖精は、金の長いウェイブの髪を地につけ、肩を出した純白のドレスの裾を少し折り会釈をした。


「妖精王…リーフ…」


 世界樹には大小様々な大きさの妖精が取り巻き遊び、リーフはその美しき生き物の頂点にいる。


「竜の御方、どうぞ」


 モフル族の耳長い一人が木の椅子を差し出してくれ座っていると、ウォールフ族長の純白のテールズが杖を付きながら現れた。


「狼の御方」


 耳長が慌ててテールズに寄り添うと、ゆっくりと歩いてくる。


 テールズの息子はどうやら同伴してはいないようで、年若いウォールフ族の二人湖の畔で立ち尽くしていた。


「ドラクーンの。母御前(ははごぜ)陛下は亡くなったか」


 シャアは亡き母よりも年上のテールズに敬意を称し、立ち上がり胸に左手を置き礼を取ると、テールズも杖を持っていない左手で礼を取る。


「はい。昨年の冬に」


「よき、王であり母であった。平和を希求し、皆人を愛していた。貴公はどうかな?」


 シャアは曖昧に笑う。


 母と比べられるのは辛く、父は覚えていないほどの年月が経っているだ。


 ドラクーンもウォールフもモフルー同様、完全体であれば長命の種族であり、羽付きの何十倍も生きていく。


 シャアはまだ三十年程度しか生きていない。


「さて…ヴェスパとダイナナの件だが…」


 老齢のテールズが椅子に座り、シャアにも腰かけさせた。


「何やらきな臭い話が出ておるのう」


 真っ白な長い髪と髭のテールズは、金の繍のある純白のローブの房をはらりと撫でる。


「それにつきましては…ドラクーンは預かり知らぬことです」


「もちろん、ダイナナには何の遺恨もない」


 ウォールフ族のオアシスの中で二番目に大きなダイナナが、ヴェスパを欲しがる筈もない。

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