表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十六章 砂漠の楽士
175/226

砂漠の楽士7

「ミク…ウォールフ族だ」


 ラーンスがミクを庇いながら立ち上がり、ひそ…と話してくる。


 シャアほどの大きさのある白銀の狼…これがウォールフ…。


「あいつに乗ったほうがいいな。ニーモはへとへとだし…」


 ミクは頷いてバイオリンケースを手にすると、ラーンスに続いて砂漠の砂に降り立った。


「正直…俺もへとへとなんだよ…」


 ラーンスが登った後に狼の毛皮を掴んで登るが、存外柔らかくてビックリする。


「ふわふわ…」


「しっかり掴まって。モフルーよ、先に行く」


 ふわ…と浮き上がるように飛翔した肢体は、あり得ないことに天を駆けたのだ。


「う…わあ…」


 柔らかな毛並みにしがみついてミクは、その前でうとうとし始めているラーンスを抱き締めながら、その振動に身を任せる。


 目下にピコとニーモが見て取れ、目前には砂漠の真ん中なのに大きな緑が見えた。


「すごい…」


 天から見るダイナナは大きな湖を持つ、豊かで美しいオアシスだ。


 この豊かなダイナナが、小さなオアシスというヴェスパと闘って何をしようというのか分からない。


 第一、森の近く…西と大きな陸を分ける亀裂付近の比較的緑豊かなオアシスをウォールフが、砂漠の厳しい地域でも最低限の水さえあれば生きられるドラクーンが管理をする。


 砂漠の中の方がオアシスは必要だ。


 ウォールフよりドラクーンの方がオアシス数が多いが、西を支配していることにはならない。


『関係は平等なのだ』


 そんな風にシャアも言っていた。


 ヴェスパとダイナナがきな臭い…。


 ミクはその噂こそが、おかしいのではないかと思うのだ。


「すごい…ねえ、ラーンス!…え?大丈夫?」


「身体の中の力が抜けてる感じで…眠い…」


 白い毛皮に伏せたラーンスが、目を閉じて息を吐いており、次第に寝息に変わった。


「ラーンス…」 


 ラーンスの様子に動揺しているミクの耳に、まるでブルーラグーンのような広さと賑やかさのあるバザールを飛び越えると、人々の歓声が沸き立つ。


「ダイナナにようこそ、音を奏でる人」


 白狼が笑った。





 ウォールフ族の族長テールズとの会見は、ウォールフの主オアシスムーンガルドと、ドラクーンの主オアシスブルーラグーンの後方にある妖精の森モフルーの森と決まっている。


 妖精リーフの世界樹湖に設けた席で、リーフに見守られながら誓約を誓う。


 それが習わしだ。


「陛下、ミクをヴェスパに行かせたことを後悔しているのか?」


 イーズに言われて、シャアは正装のための赤いトーガを纏う手を止めた。


「いや…私がいなくなるこの宮に一人にしたくはなかったので、ちょうどいい」


 森には連れていけないし、ミクをここで一人にするよりは、半年も牢に入ってこの世界を知らないミクに見聞を広めてもらった方がいいと考えたからだ。


「では、シャア・ドラクーンとしては?」 


「は…?」


 一緒に妖精の森へ向かう訳ではないイーズが、剣の相手がいないために手持ち無沙汰な様子で肩を竦める。


「どういう意味だ?」


「俺はラーンスを気に入っている。このまま番いになってもいいほどだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ